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「……ん、」




頬に冷たい何かを感じ、私は目を開けた。


目を開けた先は真っ暗でまだ何も見えない。



(何で私はこんな所に…)



朦朧とした意識の中で何があったのか、どうしてここにいるのかを必死に考える。


暗闇に目が慣れてきたのか徐々に周りの景色が分かってきた。



それと同時に記憶がはっきりとしてくる。



確か美和子に呼び出されて、海の見えるサスペンスなんかに出てきそうな崖の上に行って...


タイミング悪く辰巳が来たと思ったら変態発言&行動をするからはっきり指摘したんだった。


そのあと色々あって辰巳と美和子がハッピーエンドになって、なぜだか二人が号泣し始めて...



で、あってたっけ?


まあいい。


それで、漸く泣き止んで帰れると思ったら……




そうだ。


風が吹いた。すごい大風。


それに煽られて体が後ろに傾いたと思ったら、体が変な浮遊感に襲われて、視界もぐるっと回って青い空が一面に見えたんだっけ。


辰巳や美和子が私を呼ぶ声も聞こえて、遠くに彼らがいたのが見えて。


それから背中にすごい衝撃が走ったと思ったら


そう、水に飲まれた。




そっか、海に落ちたのか、私は。




漸く何が起こったのか理解すると、自然と結論は見えてくる。
  

私は死んだのだと。


あんな崖の上から落ちて、海の中でもみくちゃにされて生きてるはずかない。


ということはここは天国?

 
そう思ってだいぶ暗闇に慣れてきた目で辺りを見渡す。


周りに広がるのは大きな大木たち、その葉っぱの間から星空が覗く。


天国って行ったことないから分からないが、もっとこう、全部真っ白で雲の上にあって天使が笛吹きながら迎えてくれるんじゃないだろうか?


だとしたらここは…


とても天国には見えない。


ということは、ここは地獄??



そっちの方がなんだかしっくりくる。


雰囲気や死者の待遇状況とか。


そこまで考えてため息をついた。



はあ、死んでからもこんなについていないとは。


地獄に送られるようなことした記憶はないんだが。


大方、途中で神様か閻魔大王様が勘違いして誰かと間違えたんだ。



あぁ、ついてない。


もうこれからどうしたらいいんだ。


辺りを見ながら頭を働かせる。


どう考えても私以外の人はいないし、動物が地獄にいるとも思えない。


川も見当たらない。


そもそもこんな何もない場所で生き抜くすべは当然持ち合わせている訳もない。


このままじゃあ飢え死に確定。







もう死んでたんだった。


と言うことはお腹が減ることはないと。


じゃあ朝になるのを待ってこの森を抜けたら…いや、ちょっと待って、地獄に朝ってあるの??夜だってあるのは怪しい…


それじゃあ、木々の間から除くあのキラキラした星空は何?星じゃないの?虫とか?


まず第一に、地獄に森ってあるだろうか?死者はほったらかし?



もっとこう、拷問とかがあると思っていたのに。


血の滴る剣山とか、マグマみたいな真っ赤な血の池地獄とか。


もしかしてこの森にほったらかして干涸らびせる刑とか!?地獄の化物の食料にされる刑とか!?



……絶対そうだ。



よりにもよってそんなグロテスクで惨い刑にかけられるとは、ほんとに私ってついてない。


かねがね、生まれ変わるならネコになって、一人のんびり寝て過ごしたいと思ってた。


このささやかな願いくらい叶えてくれないと困る。


ホント、頼むよ閻魔大王様。



とそんなこんなを一人悶々と考えていると、背後の草むらから「ガサガサ…」と何かが近づく音が聞こえた。