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王宮内の長い回廊に、靴音が反響する。



国王が襲われた事件から丸三日が経っていた。



ジンノがルミに目を取られている隙に、副隊長二人が揃ったあの状況では適わないと逃げたのだろう。



気付いた時には、もうローブの男達の姿は消えてしまっていた。



一旦落ち着いた事件直後、ジンノは事務処理や遠征の報告会議、その他諸々で部屋に缶詰になっていたのだ。



そして今、ジンノは回廊の先にある、王宮に併設された病棟へと向かっていた。



思わず急いでしまう己を諌めて、ただ静かに足を進めるジンノに対し、後ろから足早に後を追ってくる男は、盛大に音を鳴らす。



「ジンノ様っ、お待ちください!大臣たちが、話はまだ終わっていないと業を煮やしておいでです!
 お願いですから一旦お戻りになって、もう一度彼らに話を!!」

「馬鹿に何度同じことを言おうと一緒だ」



必死に説得しようと試みる男を、ジンノは見向きもせず、一言で切り捨てる。



「ジンノ様!」



相変わらずの姿勢に呆れにも似た声を上げる。



「お前は馬鹿じゃない。これくらい分かっているだろう。こちらからはもう何も言うことはない。頭の固いお偉い連中には、お前からガキでもわかるように説明でもしてやれ。」



ジンノはそう言うと、立ち止まることなく颯爽と歩いて行った。



男は「はあーーー」と長いため息を吐く。



(......くそー、やっぱカッコイイなぁ)



「ははっ、苦労するねジンノ副隊長の補佐官も」



いつ見てもかっこいいジンノの後ろ姿を立ち止まって見送る男の後ろから、陽気な声とともに誰かが現れた。



それが誰かは見なくてもわかる。



「...君だって補佐官じゃないか」



疲れているということがすぐに分かってしまうような声で答えると、相手はまたもや嫌味なくらい陽気に笑う。



「オーリング様は自由なお人だからねー
王宮にいたがらないから、仕事は回ってくるけどジンノ様のように大臣を怒らせたりはしないから君みたく苦労はしないさ!」



ジンノの補佐官である、アルマ・クラウド
そして、オーリングの補佐官である、エルヴィス・クラウド



従兄弟である二人は代々王宮に仕えているクラウド家の生まれだ。



本来は軍事部隊に所属している人間はこう言った補佐官が付く事はない。



しかし、フェルダン王国の軍のトップである特殊部隊の隊長・副隊長は補佐官がつくことが決められている。



結果、ジンノとオーリングにつく事になったのが同世代でも優秀な魔法使いだったこの二人だったと言うわけだ。