「あかん…やっぱ仏さんの身元が判明せんことにはどーにもならんで…」


「ですね…でも歯は全て抜かれ、衣服は無く、顔は判別不能な程に潰され、指紋も長く海に浸かってた為識別不能…正直お手上げですよ…」


「わかっとるのはガイシャは外国人、あとは恐らく殺人…っつーことぐらいやもんな…」


大阪府警浪花署に勤務し、まだ一年目の神脇とコンビを組んでいるベテラン刑事の村中は目の前の事件に思わず頭を抱えた。


「捜査本部…なんて立ち上がるわけないですよね…ガイシャは日本人じゃないし、そもそも身元不明の外国人じゃ何が出てくるか解ったもんじゃありませんし。」


「せやな、予想はつけど疑わしきは罰せずゆーやつや。このまま放置しとくのが得策やってのが、概ね上の見解やろな。」


薮蛇を嫌う公務員の性だろうか、火の粉が飛ぶ前にその場から離れる嗅覚は、さすがと言ったところだ。


「僕らに回ってきた所で、ガイシャには悪いですが出来ることなんてほぼないですからね。」


「せいぜい検死の後にしっかり手を合わせるぐらいしかないわな。こんな事件マスコミも食ったりせんやろし、報告書書いてしまいやわ。」


大きく溜め息をつき、神脇はだらんと天を仰いだ。交番勤務から刑事になったのは二年前…地元の奈良県警でがむしゃらに働いた結果がこの浪花署(激戦区)への移動だった。