…この国は何て平和なんだ…
…この国は何て呑気なんだ…
…この国は何て愚かなんだ…


東京メトロに広がる人混みを眺めながら、その人物はただただこの国の愚かさに口元を歪める。

入国は赤子の手を捻る程容易かった。航空機の手配も金さえ積めば何てことはない。これが本当に世界トップクラスの経済大国の姿なのか?

呆れを通り越してもはや笑いにしかならない。

まぁいい、そんな平和ボケした国の人間に選りすぐりの構成員が壊滅させられたのは些か遺憾ではあるが、目的を達成する上での障害は少ないに越したことはない。

…あと1分…ここも危険か?いや、折角の祭りなんだ。命を賭けて特等席で観るくらいが自分には丁度いい。

わずか未来を想像して上がっていた口角が更に角度を上げた。

CIAと日本の公安にはもう話はつけてある…間違っても大規模な戦争に発展する事はないだろう…

そもそも我々は武器商人であってテロ組織ではない。そんなもの社会が勝手に付属させたレッテルでしかないのだ。米軍も実体がなければ国際的には攻撃することも敵わないだろう。

ヤツは必ず尻尾を出す…

たった一人の人間の為に何千、いや、何万の命を秤に掛ける様は滑稽ではあるのだが。ヤツが自分にとって一番の天敵になり得ている事実はよもや受け入れ難い真実だ。

遠くにやけに低く飛んでいる旅客機を視界に捉えた。始まる…

躍動を堪えきれなくなり、おもわず立ち上がり、前を横切る親子に声をかけた。


「観光ですか?」


「え?あぁ、ええ。そうなんです。これからスカイツリーに娘と。」


突然見知らぬ人物に声を掛けられ、戸惑いながらも娘を連れていた母が答えた。


「そうですか…あなたは運がいい…今日はグランド・ゼロがここ日本で起こる日です。巻き込まれなくてよかった。」


「え?」

母親は怪訝な表情をしながら娘の手を引きその場を後にしようとした…おそらくあたまのおかしな人物に絡まれたとでも解釈したのだろう…

その時…


壮大な爆発音が辺りを包み…


日本技術の象徴である塔が…


二つに別れた…