「兄さん、今夜は遅くなるの?」

「う~ん、どうだろうね。
本人は少し遅くなるみたいなことを言ってたけど…」

「仕事?」

「……多分、今夜はそうじゃないと思うけど……」

少し言いにくそうにして、アッシュさんがそう答えた。
ってことは……私にだってそのくらいの察しはつくよ。
兄さんは独身なんだし、スキャンダルとかトラブルにさえならなきゃ、別に私がどうこう言うことじゃない。
モテる男は忙しいんだね。



「そうそう、買い物のことなんだけど、ボク、日曜と来週の土曜はちょっと用があるんだ。
もし急ぐなら仕事が早く終わった日にでもどう?」

「え…あぁ、別にそんなに急いでないから良いよ。
ありがとう。」

野々村さんの応援・おしゃれ大作戦は、兄さんの急な提案で中止になった。
そもそも、なんでまた皆で遊びに行こうなんて言い出したのか、よくわからない。
しかも、テーマパークに行くだなんて…
兄さんがそういう所は好きだとは思えないから余計に変な感じがして…
でも……もしかしたら、私のことを気遣ってくれてるのかもしれないって気もしてる。
このところ、私がぼーっとしてたから、兄さんなりに考えてくれたんだとしたら…それは素直にありがたい。
テーマパークの後は、好きなものを食べて良くて、しかも、その後にはカラオケにまで連れて行ってくれるらしいから、その可能性は大きいよね。



(口煩いところもあるし、どこかとっつきにくいけど…やっぱり優しいんだよね、兄さんって…)



だから、買い物が中止になったことも文句なんて言えない。
幸い、野々村さんも、遊びに行く事を快く了承してくれた。
最初はちょっと遠慮してるみたいだったけど、兄さんが野々村さんにも来てもらいなさいって言ったってメールしたら、なんだか急に態度が変わって…
兄さんは仕事の雇い主でもあるし、野々村さんはやっぱり兄さんに対しては気を遣ってるってるんだと思う。
本当は行きたくないのに、立場上断れないんだったら申し訳ないけど、実際の所、どうなんだろう?
兄さんは、どうも態度が偉そうに見えるところがあるっていうのか、マイケルさん達や大河内のおじいさんみたいにフレンドリーなタイプじゃないから、ちょっと怖いって思われてるのかな…
根はけっこう優しい人なんだけど…なんて言いつつ、妹の私でさえちょっと苦手意識があるくらいだから、野々村さんがそう思っても仕方ないか…