あの一件以来、俺は翠にメールが送れなくなっていたし、話しかけることすら躊躇する状態だった。
 そんな中、弓道の試合前日に翠から電話がかかってきた。
 応援の言葉のほかに、試合のあとに家に寄っていかないかと訊かれ、試合後の待ち合わせ場所を決めるとすぐに通話は切られた。正味五分とかからない電話。
 今までと何も変わらないし、俺たちにとっての「普通」ではあるものの、海斗に言われた言葉が引っかかったままだ。
 これ以上何を話せというのか……。
 翠は全試合が終わったあとに鎌田と藤棚で会う約束をしていると言っていた。少し話すだけと言っていたが、そう思っているのは翠だけな気がする。
 そして、同じ場所を俺との待ち合わせ場所にするあたり、やっぱり翠は鈍感だと思うわけで……。
 翠を好きな鎌田が何も考えずに呼び出すわけがない。そのくらいは俺にでもわかる。
「無神経……」
 呟きながらも制服に着替え、俺は足早に藤棚へ向かった。