さくらは、おもちゃ箱みたいな、おばあちゃんのへやが大好きです。

 ふるい写真や、おみやげもの、手づくりのお人形などがたくさんあります。

 いつもおばあちゃんが縁側でお庭を見ている時間にそっと部屋の中に入ります。

棚の上のお人形の影に、背中に羽の生えた天使が付いた、美しいオルゴールを見つけました。

「どんなふうに歌うんだろう。」

さくらは、わくわくしてねじを回します。

キリ キリ キリ キリ

そっと蓋を開けようとしました。

でも、オルゴールの蓋は開きません。

 ふっても、たたいても蓋は開きません。開かないと思うと、どうしてもどんなふうに歌うのか気になって仕方がありませんでした。

 おばあちゃんに聞いてみようか。でも、こっそり部屋の中に入っていることはおばあちゃんには内緒でした。

 さくらはそのオルゴールをこっそり部屋から持ち出しました。

ばれないように、オルゴールのあったところに別の箱を置き、お人形を並べ直しました。

 自分の部屋に戻ったさくらは、定規をオルゴールの蓋の隙間に当てて、こじ開けようと思いました。でも、ちっとも開きません。

鍵穴みたいなものもないし、どうして開かないのか全く分かりませんでした。
 
次の日も、開けてみようと頑張りました。でも、どうしても開かないので、おばあちゃんの部屋に戻すことにしました。

 今日もおばあちゃんは縁側でお庭を見ています。その隙にこっそり部屋に入り、人形をどけて、オルゴールの代わりに置いておいた箱を取りました。

 トン トン トン トン

 おばあちゃんの足音です!部屋に戻ってきてしまったのです。さくらは驚いて、オルゴールを床に落としてしまいました。

 さくらはオルゴールを壊してしまったと思いました。
おばあちゃんに怒られると思いました。
どんどん怖くなり、窓から走って逃げていきました。その日は部屋にこもり、布団をかぶって、ご飯も食べませんでした。
 
 次の日、扉の前におにぎりとオルゴールが置いてありました。
 オルゴールの下には手紙があります。

『天使を右に回す』

 ひとことそう書かれていました。

 さくらはそっとオルゴールを手に取り、ベッドに座りました。

 ドキドキしながら天使を右に回すと、カチという音がして、蓋が開きました。天使の歌声のようなその曲はねじが止まるまでずっとさくらの心を癒し続けてくれました。

 今日は縁側にいるおばあちゃんの横でこのオルゴールを2人で聞こうと心に決めたさくらでした。