翌日、学校に来てクラスメイトに挨拶をすると、私はそのまま自席に着いて窓の外を眺めた。


『良かった』

『気を付けてね』


あの微笑みが、あの声が、昨日からずっと脳内でリピートされている。


忘れられないんだ。


たった、1ミリさえも。



朝の通学路、あの角から出てくるんじゃないかって。


信号待ちをしている、あのたくさんの人の中に紛れているんじゃないかって。


人だかりを見つけては、ずっと目で追いかけて。



あなたの姿を、探してる。



叶うなら、もう一度。


あなたに、会いたい。



「うらら、うららってば!」


「うわあぁっ!あ、亜美!?」


「ど、どうしたの?」と平静を装って尋ねると、「それはこっちのセリフよ!」と怒られてしまった。


「ぼうっとするなんて、どうしたのよ?」


うらららしくないわ、と心配された。


亜美は眉を下げて、私をまっすぐに見つめていて。


心配させていることが、とても申し訳ないと思った。


とっさに笑顔を作った。


「何もないよ、大丈夫」


けれど笑ってみせても効果はなくて。


「嘘。うららが朝から何も話さないなんて、大丈夫なわけがないじゃない」


亜美は穏やかな顔になって、私に尋ねた。


「何があったの?」


「...実は」


そこでチャイムが鳴り響いた。


「...後で聞くわね」


亜美はそう言い残して席に着いた。


担任は教室に入ってきて、教卓に両手をつくと「今日は皆に紹介したい人がいる」と切り出した。


「入ってきていいぞ」


扉に向かって合図をすると、ガラリ、と教室の引き戸が開く音がして、人が入ってきた。


教室の空気が騒めきだす。


その人物の姿を捉えた瞬間、思わず息を呑んだ。


「う、そ」


口元を手で覆った。


そこにいたのは、私が願っていたひと。


会いたいと思っていた、侑也さん、その人だった。