うらら。


両親は私に、晴れ晴れとした明るい子に育ってほしいと願い、そう名付けたそうだ。


大地を明るく照らす太陽みたいに、いつでも楽しそうに笑っていてほしい、と。


友人曰く、私はその名の通り、両親が願った通りの、そんな人物に育ったらしい。


朝礼前、学校の購買から教室へと向かう中、戦利品とも言うべき品物が入ったビニール袋を満ち足りた気持ちで覗き込んでいると、隣を歩いていたクラスメイトの香宮亜美(かみや あみ)がこう言った。


「ほんと、うららの笑顔って底抜けに明るいわよね」


「そうかなあ?」


私がとぼけると、亜美は「そうに決まっているじゃない」と不機嫌そうに溜め息を吐いて、肩に下げていたスクールバッグを掛け直した。


「購買のメロンパンが買えたからってこんなにも笑顔になれる人、うらら以外に知らないわよ」


「でも、購買のメロンパンってすごくおいしくて大人気で、いつも売り切れちゃうくらいなのに、今日は買えたんだよ!?頑張って早起きして購買に直行した甲斐があるってもんだよ!」


嬉しいことこの上ないよ、と私が力説すると、亜美はまた溜め息を吐いた。


「うららは幸せな人ね」


こんな小さなことで喜べるなんて、と亜美が眉間にしわを寄せる。


「小さくても幸せなことは幸せだよ」


にーっと笑って見せると、亜美は少し笑って私の頭に手をポンと乗せた。


「うん。まぁ、そういう前向きなところがあなたらしいんだけどね」


そこでチャイムが鳴り響き、2人顔を見合わせた。


「ねぇ、亜美、これって」

「えぇ、うらら、これは」


たらり、冷や汗が流れる。


お互い分かりきっていた。

今まで何回、何十回と聞いてきた、このチャイムの意味を。


「これ、朝のホームルーム開始5分前のチャイムじゃない!」

「急ごう!」


いつもは落ち着いている亜美も慌てて、2人で階段を駆け上がる。

私達が教室に入った瞬間、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。


「セーフ!」

2人で微笑んで、席に着いた。


そうこうしていると担任が入ってきて、朝のホームルームが始まった。