クリスマスは、ホテルの繁盛期。

イヴの夜からクリスマスの朝にかけてのカップルの山。

そんな中でイヴの日を早番で終わることが出来たのは、運が良かった。

いくら忙しいホテルでも、早番だと5時には終わることが出来る。
そこから、デートだって余裕で出来る。


「もしもし、私だけど。
もう向かってくれてるの?」
ホテルの従業員出入り口を出て電話をかける。
高鳴る胸が音をたてていた。

「うん。あと2分かな、ちょっとだけ待ってて」

「分かった。ゆっくりでいいからね」

電話口から聞こえた恋人の声が、少し上ずって聞こえたのは気のせいだろうか。
私の声も、いつもより高くなっていたかもしれない。


この日の為のワンピースは、奮発して買った。

胸元にビジューがついていて、黒のレースで全体が覆われている。
透けっぽくないから、いやらしくもないし、寧ろ大人っぽく見える。

たかが服、されど服。
それで気分が上がるなら、なんだっていい。

なるべくナチュラルに、メイク直しもして、
凝った風に見えるヘアアレンジもして。


こうして迎えるクリスマスイヴが、楽しみで仕方なかった。
うきうきして、仕事中に上の空のときだってあった。



だってこの間、プロポーズされたばかりだったから。

左手の薬指に光る、ダイヤのついた指輪がどのイルミネーションよりも綺麗に見える。


私はもうすぐ、結婚するんだ。
婚約者と、クリスマスイヴを過ごすんだ。

こんな状況で、落ち着いていることなんて出来ない。
どんなに冷たい風が吹いても、どうだって良かった。


ホテルの正面入り口に着くと、照れくさそうに笑いながら駆け寄ってくる彼の姿が目に入った。


世界で一番、幸せ…

彼の腕に手を通しながら、そんなことを考えていた。