夏の余韻を少し残した、ある日。

井戸の水を汲みながら、少女はフードをぐっと目深に被り直した。


あれから、3年が経った。
まだ国は今でも私を探しているのだろうか。

「エル。そろそろいいぞー」
「…うん」

そんな事を考えていた少女の耳に入ってきたのは、呑気な店主の声だった。

少女……エルは、たっぷり水の入った桶を持ち、その店主の元へと歩き出した。

歩く度にちゃぷちゃぷと水が飛び跳ねる。

「喜べー。今日はいつもよりたくさんあるぞ」
「ハウザーは?食べないの」
「ん?俺か?俺も一緒に食べるよ」
「…そう」

手を合わせ、なぜかハウザーが自慢そうに取り出したパンを食べる。


あの日。城を逃げたした後、エルはこの奴隷屋の店主、ハウザーに拾われ奴隷となっていた。

今では、お金を得るため人だって売買される時代。
奴隷に、優しくする者などいない。

だか、この店主は変わっている。

普通、奴隷屋の店主は奴隷に食べ物を与えないのだ。

だって、当たり前だろう。奴隷なのだから。