「はい、これ」

ジャラリと、目の前に置かれた重たい袋。
触れていなくても音で分かる。

この中にはいったいいくらの金貨が入っているのだろうか。


「とりあえず、風呂。その間俺はエルの服選んでくるから」

「……お風呂?私が入るの」

「当たり前。エル以外に誰が入るんだよ」

「………そう…」

「それに、ずっとその服のままも困るだろうし」

そう言うと、シエルは私を銭湯に連れていった。
そのまま彼は買い物に行ってしまったけれど。
私は驚いて仕方がなかった。

本当に彼は私を奴隷と思っていないのかもしれない。

久しぶりに感じる温かい水。
肌にしっとりと馴染んで、体がポカポカとしてくる。
初めてだった。
私を買ったのに、銭湯に連れてきてくれた人は。

息をつき、湯船に浮かぶ自分の髪を手でたぐり寄せる。

なぜ自分はこんな髪など持っているのだろうか。
私が"怪物"だと呼ばれる所以。
それは私が異形な存在だから。


自分でも気が付かない。

私は、ふとした瞬間我を忘れてしまう。
目の前が真っ黒になって。
一瞬。
その一瞬の内に、私の周りにいた人達は皆死んでいた。