- another -

 朝の通学バスは、いつものように混んでいた。

 俺(王宮樹)は始発から乗っていつも座ってられるからラッキーだ。
 けど、その日は異変があった。

「っ!」

 近くに立っていた女子が、一瞬にして顔を蒼くする。調子悪いのか?と思ったけど、目を下げて理解した。あぁこいつ、

 痴漢にあってんだ。


「(叫ばないのか)」

 女子が何かするかと思って黙ってたけど、そいつは何をするでもなく耐えていた。今にも泣きそうな癖に、なんで何も言わないんだ。

 見てしまった手前、何もしないわけにはいかない。声出すのはダルいから、手でも引っ張るか。

「へ、あ……れ?」

 今何が起きたか分かっていない女子は置いといて。
 見えた、あいつか痴漢野郎か。

「……(ギロッ)」

「チッ」

 睨むと奥に姿を隠した。
 二十代~三十代のサラリーマン……何が面白くて、こんな魅力のない女で遊ぶか分からない。

「おい」

「――へ?」

「大丈夫か?」


 ――だけど、まさかこいつが俺のことを知らなくて、仮彼女までやってくれるなんて思わなかった。俺に興味もなさそうだし、せいぜい恩を返してもらうとするか。

「あ……一応」

 ピピピピ

『俺のこと、絶対好きにならないこと』

 これでよし。