少年は私の手を取ったまま、町の中を歩いていった。



「どこに行くんだい?」

「神様のいる所だよ。」

「神社なのかい?」

「僕…そういうこと、よくわからない。」

「そうか……」

少年の手は小さく、体温もごく普通の人間のように感じられた。
時折、これが夢の中の出来事だということを忘れてしまう程に、この世界は様々な所から現実感を感じさせてくれる。
考えてみれば、夢の中でこれが夢だと自覚することもおかしな話なのだが……



少年は町を抜け、裏山の方へ私を導いて行った。



「そういえば、君はどこに住んでるんだい?
あの本屋さん?」

「ううん。あれは本屋さん。
僕は、本屋さんじゃないよ。」

「……そうか。」

幼いとはいえ、このくらいの年齢の子供ならもう少しわかりやすい答えが出来ても良さそうなものなのに…と、私は心の中で小さなため息を吐いた。



少年は山道を慣れた足取りで進んで行く。
さほど急ではないにしろ、斜面を登っていくのは大人の私でも息が切れるというのに……



「君はここへはよく来るの?」

「そうでもないよ。
僕には必要のない場所だから。」

「そうか、じゃあ、私のためにわざわざ連れて行ってくれるんだね。
ありがとう。」

少年は不意に立ち止まり、私の顔を見上げた。



「どうしたんだい?」

「……そんなことで、ありがとうって言われたの初めてだから…
お兄さんは良い人なんだね…」

少年は、淡々とした口調で…しかし、どこか不安げにも見える表情でそう呟いた。
私は、何と返事をすれば良いのか思いつかず、ただ黙って彼の瞳をみつめていた。



それからなおも私達は山道を登り続け、私達の顔にも汗が滲んで来た頃、やっと頂上近くに辿り着いた。



「お兄さん、あそこだよ。
あそこが神様のいる所。」

少年が指差したのは小さな古い祠だった。