祠の前には賽銭箱と鈴があり、格子戸の中は異様な程暗く、外からは良く見る事が出来なかった。
私と少年は、祠の前で目を瞑り手を合わせた。
私は特には願い事はせず、少し経って目を開けると、少年はまだ手を合わせ何事かを熱心に祈っているようだった。



「何を祈ってたんだい?」

「……内緒だよ。」

「そうか、内緒か…
ところで、ここはどんな神様がいらっしゃるんだい?」

「それはね……」




「瑞月!」




「あ!ほむら様!」



少年の名を呼んだのは、蝋人形のように白い肌をした少女だった。
腰のあたりまで伸びた髪の毛は、夜の闇よりも黒い。




「ありがとう、瑞月…
みつけてきてくれたのだな……」

「えっ…!!
それじゃあ、この人が…?」

少年にほむら様と呼ばれた少女は、表情を少しも変える事なくゆっくりと頷いた。
二人の会話は、私のことを言っているのだとわかるが、それがどういうことなのかは皆目わからなかった。



「お兄さん、こちらは、ほむら様。
神様のお使いなんだ。
あとは、ほむら様に聞いてね。
じゃあ、僕は帰るから……
お兄さん、頑張ってね!」

少年は私に微笑みかけながら、私を置いて勝手に帰ってしまった。



(本当に、自分勝手な登場人物ばかりだな。
まさか、私自身がそういう性格をしてるということではないだろうな…?)



「ようこそ、選ばれしお方…お待ちしておりました。」

私の物思いを破るかのように不意に少女の声が響いた。



「選ばれし…とは、まさか私のことですか?」

少女は黙って頷いた。



「私が誰に選ばれたというのです?
何のために選ばれたと…?」

「それは、あなたが知る必要はありません。」

「…………」

まただ…
ここへ来て、こういう答えを聞かされたのは一体何度目のことだろう?
慣れたとはいえ、感じの良いものではない。
しかし、そうかといって少女相手に怒るほどのことでもないし、所詮は夢の中のことなのだ。
目が覚めれば一瞬にして消える儚い記憶……
真剣に考えることもない。
そう考え、私は少女の次の言葉を待ってみることにした。