「あ、山南さん…」
隊服を洗っていると、山南さんが近くの廊下を通りかかってこんにちはと声をかけてくれたのでぺこりと頭を下げる。
「血がついていると洗うのも大変でしょう。手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫です。確かに大変ですけどこれは私の仕事です。それに最初に比べたら手際もよくなったんです」
ふふっと笑って洗っている隊服をみせるとにっこり笑ってくれる。一見穏やかに見えるこういう人ほど腹の中は真っ黒なんだろうなぁなんて思って、ふと彼の腕に目が行く。
…まだ怪我をしていない。ということは池田屋もまだ、か。
「どうかしましたか?」
「いえ、あの、今って何年なのかなぁって…」
「今、ですか?文久3年ですよ」
文久3年ということは1863年か。じゃあ今年の五月に山南さんは…。
「大丈夫ですか?」
「え?」
「随分と痛そうな顔をしていますよ」
足元の洗濯桶に張った水面にうつる私の顔は痛そうな、というよりも情けない顔をしている。
「不安なのですか?この時代に来てしまって」
「そう、かもしれません。来た理由も分かりませんし、戻れるのかどうかも…」
貴方の心配をしていたんですなんて言えるはずもなく、へらりと笑う。
「未来を知っているぶん、なにも言えない貴方は苦しいのでしょうね。でも私達は決してあなたを責めたりなんてしませんよ。それが決められた運命ならば私達はそれに抗い生きるだけです」
「山南さん…ありがとうございます」
「 ゙ 仏の山南 ゙ですからね。どうですか?拝んでおきますか?」
にやりと笑った山南さんに私もにやりと返す。
「では、 ゙仏の山南 ゙さんにひとつお願いしても?」
「きくだけきいてみましょう」
くすくすと口元を押さえながら二人で顔を見合わせる。