走っていった背中を見送る。


……朝からなんだったんだ。



「日向、水無瀬さんと知り合いだったんだな」


「水無瀬さん?」



その名前に聞き覚えがなくて思わず隣にいた颯に疑問を向ける。



「あれ、知り合いじゃなかったの?」



ちなつの隣にいた、と言われてさっきの子が"水無瀬さん"だと分かった。



「昨日、ちょっと……」


「へぇ?」



不思議そうにするが、颯は何も言わなかった。




水無瀬さん、ね。


お礼を言いに来てくれるなんて、礼儀正しい人だな、と思った。


昨日傘に入れてあげたのはただの気まぐれだったのに……



たまたま帰るときに、部活でタオルを忘れてしまって。


取りに戻ると雨を避けるように立っていた彼女と目があってしまい。


なんだかそのまま見過ごすのも嫌で、思わず声をかけていた。



「でも珍しいよな。日向が女子と関わるの」


「……そうだな」



颯とは中学の頃から知り合いだから、俺が女子に興味がない、というか女子を嫌がっているのは知っている。


ちなつも珍しがってたぜ、と颯は言った。



まぁ赤崎さんとも同じ中学だったからな。


不思議に思うのも普通、か。




「彼女は、違ったな…」



え、何か言った?と言う颯になんでもない、と言った。



本当に、なんでもなかった。


ただ、彼女、水無瀬さんは他の女子と違って、俺に普通に接してくれたなって思っただけで。


ただ、それだけだった。