時は流れ、3年2ヶ月後の5月14日。



「警察だっ!」



そう声をあげると共に目の前にあるドアを押し開けた日下部。


白髪混じりの髪に無精髭という出で立ちの日下部は、疲れているのか目の下に隈が出来ている。


ただ、がたいの良い体格と、目の鋭さは40代になっても何も変わらない。


正にテレビに良く出てくる刑事という風貌だ。



「あっ、…違っ……」


「動くな!瀬野!」



そう言いながら拳銃を構え、ジリジリと瀬野と呼んだ男へと近付いていく。


瀬野はガタガタと震えながら、日下部を見つめるだけ。


その手には真っ赤に染まったサバイバルナイフが握られている。


ぬるっと日下部の足元が滑る。


それもその筈。


ドアを開けて玄関を越えた直ぐの部屋で血だらけで倒れている人がいるのだから。


その人の血が真っ赤な線を引く様に玄関から瀬野の方へと続いている。いや、瀬野の前に倒れているその人へと続いている。


必死で逃げようとしたのだろう。


この廃屋と化した民家は、幽霊屋敷としてこの辺りでは有名だ。


ただ、噂は所詮噂だった。


実際にここで人が亡くなったという話は無い。



が、これからは本当に幽霊も出るかもしれない。


目の前で倒れているその人の霊が。



その人は、腹部を何十回と滅多刺しにされていて、腸がだらりと腹部から出ているのが見てとれる。


もう息堪えているだろう、その被害者。


間違いなく犯人は瀬野だ。



「お、…俺は……、俺は…悪くない!」



そう日下部に向かって叫ぶ瀬野は狂っているのかもしれない。