勇吾は、雨の中、ひとり帰宅した。

杏奈の家をちらりと見る。
杏奈の部屋に電気がついていたので、安心した。とりあえず、家にはちゃんと帰っているようだ。

心の優しい杏奈のことだから、勇吾を巻きこんでしまった……と自分を責めていないか、とずっと気がかりだった。

玄関のドアを開けようとすると、携帯電話が鳴った。何気なく開いてみる。

【†強欲† 汗水ひとつ流さず、手に入れた物は、たくさんの羽をむしりとって、はばたいていってしまうだろう】

たったそれだけのメールだったが、勇吾は言い知れぬ不安感に襲われた。

一体誰からのメールだろうか、と首をかしげながら、玄関を開けるとすすり泣くような声がした。
最初はテレビかと思ったが、どうも違う。

リビングに入ると、母がダイニングテーブルにつっぷして、泣いていた。

今日は、夜勤のはずなのに、と勇吾はとまどう。

「母さん、なにかあったのか?」

勇吾が、そっと肩に手を置くと、母が顔をあげた。
泣き腫らしたらしく目が充血している。