しかし、さっきは薄気味悪かったな、と思いながら、伸二郎は家へと足早に帰っていた。
大きな雨粒が、傘に落ちる音がする。

ひとつだけわかったことがある。
もうマリア様が願いを叶えてくれそうにないということだ。

あの最初に願いごとをしたときに、世界一の天才にしてくれと言えば良かったんだ、と伸二郎は心の中で舌打ちをする。
そうすれば、兄も両親も自分にひれふしただろうに……。

伸二郎は玄関で傘をおりたたみ、水滴をはらうとドアを開けた。

「おかえりなさい」と母がスリッパを鳴らして、出迎えてくれる。

先日、家庭教師がきて、いつものようにミニテストが行われたのだが、その時に、生まれ変わった頭脳を披露した。
教科書をぺらぺらめくるだけで、すべて頭に入ってくるので、ミニテストは満点、さらにまだ習っていないところまで、完璧に答えたので、家庭教師は突然の変わりように目を丸くしていた。

その話は、母にも伝わったようで、ここ何日かとても優しくなっている。

「ただいま」と伸二郎は、傘を立てかけておいた。

「今日は家庭教師の先生が来る日ね。あとでお茶菓子を持っていくから」

母の言葉に伸二郎はうなずきながら、リビングへ入り、自室へと向かった。