「 はぁ 、は •• ッ 、! 」



 あたり一面暗闇で 、わたしは必死に
 足を動かし逃げている 。


 何から逃げてるのかは分からないのに
 本能が 、( 逃げろ ! ) って言っている
 気がするんだ 。



 頬を撫でる外気は生温くて 、
 走るたびにびちゃびちゃと水音が
 聞こえるから下は水溜りなのだろう 。


 後ろから 、何かが追ってきてる気がする 。


 言いようのない恐怖 。
 普通に暮らしていたら感じることの無い 、


 自分が食べられてしまうんじゃないかという 、
 背筋が粟立つ 、恐怖 。


 わたしの荒い息遣いと足音だけが
 響くこの空間には 、
 わたししか居ない筈なのに
 何者かが迫ってきている気がする 。


 ( こわい 、こわい •• っ ! )


 ( うし 、ろ •• っ 、何か居る •• ! )


 さっきまでは感じなかった気配が
 今は背中に感じる 。


 ーーー 捕まったら 、だめだ 。



 足が震えて上手く走れない 。

 冷や汗が身体を伝う 。



 「 〜 っ!? きゃあっ !! 」



 ズサッ!という音と共にわたしは
 転んでしまった 。

 掌や膝がひりひりと痛い 。


 早く 、立たなきゃ 、逃げないと !


 立ち上がるために上体を起こした
 その時だった 。






 [ ツカマエタ •• ]



 「 ーーー ッ !!!!! 」


 耳のすぐそばから聞こえる
 ねっとりと 、地を這うような声 。

 立ち上がろうとしていた身体も
 今は凍り付いたように動かない 。


 [ ヤット •• コノトキ •• キタ •• ]



 背中にのし掛かる何かは 、ひどく冷たい 。



 「 ひ •• ぁ •• っ 、」


 口からは母音が漏れるばかりで
 ことばが紡げない 。

 わたしの背後に居る " 何か " は
 不気味にくつくつと笑い言葉を続けた 。


 [ ズット •• ズット •• マッテタ •• ]


 待つ 、って •• わた 、しを •• ?

 

 「 ! いた •• ! 」


 急にうなじ辺りの髪を掴まれた 。

 握り締めた掌は真っ白だ 。


 「 !!!! 」


 首もとに感じる 、冷気 。

 こいつの 、息 •• ?




 [ ヤット クエル •• !! ]



 ぐぱぁ と 、こいつが口を開ける
 音が聞こえた気がした 。


 ねとりと首もとが湿って 、牙が当たる 。


 「 ぁ •• 、ぁ •• ! 」




    ク ワ レ ル !!!!





 「 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ !!! 」