ケータイ小説 野いちご

ハンドメイド マーメイド

夏のかけら

 


呼吸を忘れて
言葉も忘れて

ただ本能のままにどこまでも
たったひとりで泳いでいく日々

そうしていつか辿り着く場所を

私はまだ、知らない












(……あ、)


いつの間にそこにいたのだろう。
下からこちらを見上げてくる彼と目が合った瞬間、どくりと心臓が跳ねた。
足を掛けたフェンスが小刻みに揺れて、勇んでよじ登ってきたはずの身体がその振動だけで振り落とされそうになる。

うわ、うわ。
これ思ったより高い……。

地上からの高さは2メートルくらいだったはず。でも体感はそんなものじゃない。もっともっと、真下にいる彼との距離は遠く感じる。

プールのフェンスに跨ったまま身が竦んでしまった私をぽかんとした顔で眺めていた彼は、やがて片掛けしていた緑色のリュックをきちんと両肩に背負い直すと。

「降りるの手伝いましょうか」

よいしょ、と勢いをつけて、フェンスをよじ登ってきた。


 

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