カタン…

障子の向こうで、微かな物音。

長年、死地に身を置いて鍛え上げた鋭敏な感覚が、ソージに覚醒を促した。


(なんだ?)


体内時計は、今は丑の刻だと告げている。

つまり午前二時くらい。
夜中じゃん。

まじで、なんだ?
こんな時間に。

昼間の猫が戻って来ちゃったの?

ポチャン…

カラカラ…

またも、微かな物音。

ソージは素早く身を起こし、枕元にあった刀を掴んだ。

あれは井戸に釣瓶を落とした音。
そして、水を汲み上げる滑車の音。

最初に聞こえたのは、井戸の蓋を開けた音ってわけだ。

猫であるはずがない。

泥棒か…

重い身体で、出来得る限り音を立てないように障子に寄り、細い隙間から外の様子を窺う。

いた。

黒い人影が。

どうやら一人のようだ。
その上こちらに背を向けて、カラカラと釣瓶を引き上げ続けている。

世話になっている植木屋の主人のためにも、放っておくわけにはいかない。

ソージは勢いよく障子を開け放ち、縁側に片足を踏み出した。