メールには、地図が添付されていた。それを見る限り『藤家』まで自転車で30分以内だった。直哉は、自転車にまたがった。

このスーパーマーケットを右に…

どんどん人通りの少ない路地の様な道が続いていた。

間違ってないよな…。

不安な気持ちを抑えつつペダルをこいだ。5分ほどたった時に左側に『藤家』の小さな立札と暖簾を見つけた。

あった…。

少し古びてはいたが汚いわけではなく落ち着いた趣のあるところだった。引き戸の前に立ち少し躊躇した。だがいを決した。

ガラガラ…

「いらっしゃいませ。」

一人の女性が調理台で作業をしていた。彼女は、顔を上げ笑顔をこちらに向けた。歳は40前後だが美しい女性だった。

「あの…天の邪鬼から呼び出されて。ここに来るようにって。」

すると彼女は、ふふふと笑い

「皆さん、お待ちよ。さあ、どうぞ。」

彼女は、手招きをして奥の座敷に連れて行った。

障子を開けると驚く光景が目の前に広がった。

「やっと来たか。」

言葉を発したのは間違いなく保健医の一ノ瀬だった。そして向かいには東雲隼人、もう一人は二.三日前に公園で見かけた青年だった。

「何の真似ですか。」

「まあ、一旦座れ。話はそれからだ。」

お茶と和菓子が運ばれてきた。

「はい、どうぞ。粗品ですが召し上がって下さい。」

「すいません、幸子さん。」

「いいえ。ではごゆっくり。」

幸子と言う女性はにっこり笑うと、直ぐにその場を離れて言った。

静まりかえった空気の中、口火を切ったのは名前も知らない青年だった。

「あの、天の邪鬼って何ですか?」