ラベンダー荘の住人たち全員に挨拶する前に、中を探検するのは気が引けるので、スニーカーを履いて、裏庭に向かった。

 ラベンダー荘の裏手にまわったとたん、湿った土の匂いと草の青臭い匂いが、鼻をついた。

 イギリス風のガーデンを想像していた私は、肩透かしをくらった気分になる。

 裏庭は前庭の二倍の広さがありそうなのに、手入れがされているのはラベンダー荘側の半分で、横長の花壇と小さな野菜畑がある。

 アイアンフェンスに近い土地は、所々むき出しになり、抜いた雑草が入った大きなビニール袋まで置かれている。

 お昼をまわって春の日差しはきつくなり、気温がじわじわと上がってきている。

 風がない。

 ラベンダー荘のあの花の香りもほとんどしない。

 本来なら敷地の外から入ってくる風も、アイアンフェンスの空間を雑草がもっさりと覆ってまったく入ってこないのだ。

「ひどいでしょ?この間の雨の後、ますます伸びちゃって」

 突然背後から声がして、びっくりして振り返ると髪を高い位置で一つに結った女性が立っていた。