ケータイ小説 野いちご

いつか本当の自分に出逢うまで

迷い道

「へぇー。良かったねえ…」
電話口の向こうから、ミリのニヤけた声がした。
ハートを伝えた事を教えたくて、帰ってすぐに連絡した所だった。

「この間のレイラの様子じゃ、告白はないのかと思ってたけど…そっか。彼の方も想ってくれてたんだ…」
羨ましそうな言い方に、照れ臭くなった。

「うん…ちょっと予想してなかった…」
彼が私を好きでいたなんて、今でも夢見てるみたいな気分。

「頼りないって言ってたけど、意外としっかりしてるようだし、レイラを安心して任せられそうね」
親みたいな事言ってる。そう言えば、お互い子供の頃から寮生活で、面倒見合ってきた仲だっけ。

「それで?どんなふうに付き合うの?これから」
年下の彼と付き合うなんて初めてだからか、ミリの方が興味津々だ。

「どんなって…特に何も決めてないけど」
「えっ⁉︎ 何の約束もしてないの⁉︎ 」
ビックリ…いや、ガッカリ…?

「なんで⁉︎ 付き合うことにしたんでしょ?」
妙に気にしてる。

「そうだけど、私達って休み合わないのよ。顔合わせても、お互い院内では話もできないし。だからメールが主かな…って」
「えーっ!何それ、つまんない!せっかくレイラの恋バナで、エッセイ書けると思ったのに…」
ガクッ…それでか…。

「あのねミリ…、あんたにも彼氏いるでしょ。そっちをネタにしなさいよ」
編集社に勤める、イケメン彼氏の顔を思い浮かべた。

「私の恋バナなんて、ネタにならないよ。だって、ここ一ヶ月近く、会ってもないもん…」
トーンダウンする彼女の様子が気になった。

「…ダイさん、ずっと忙しいみたいで、仕事以外で会えないの…だから話にもならなくて…」
諦めたように溜め息ついてる。ミリの彼氏で、雑誌の編集者をしてる三浦大紀(みうら ひろき)さんは、人気ページを幾つも担当している敏腕で、常に締め切りを抱えてる。ついこの間会った時も、仕事の合間を縫うようにして来たと言ってたくらいだ。

「レイラはいいな。仕事場へ行けば彼に会えるもんね…」
自分も毎日彼氏に会いたいけど、そうもいかない。想いが通じ合っても、自分はいつも一人…と寂しそうに呟かれた。

「ミリ、元気出しなよ。三浦君が忙しくても、私が一緒に遊んであげるからさ。それに、そんなに寂しい思いしてるんなら、一度ハッキリ彼に言いなよ。仕事と私、どっちが大事なの ⁉︎ って」
他人事だから私は簡単に言えるけど、そうもいかないのが現実。ミリの答えは重かった。

「そんなこと言って、仕事って言われたらどうするの ⁉︎ 私、立ち直れないよ…」
ますます落ち込ませてしまった。

「だったらさ、思いきって一緒に住んじゃえば?そしたら毎日会えるよ!」
短絡的な私の考えに、焦った声がした。

「そ…そんな勇気、私にある訳ないでしょ!男性と付き合うの初めてで、今だにあれこれ迷ったり悩んだりしてるっていうのに…」
相談してくる内容からして、ミリに同棲なんて当分無理だと思ってはいたけど、今の状況じゃ、あんまりだ。

「じゃあどうする ⁈ 三浦君がプロポーズやり直してくれるのでも待っとく⁈ 」
二人が付き合いだしたきっかけを思い出して口にしてみた。

「…してくれるかな?」
今ですら、忙しいを理由に電話だけの人なのに…と、少し恨みがましくなってきた。

「どうだろうね、心配なら一度、彼の本音を聞いてみるといいよ。私はいつまで待っとけばいいですか?って」
「……………」
とうとう黙り込み。きっとミリには、そんな恋愛の駆け引きも難しいんだ。

「とにかく、近いうちにまた三人で飲もうよ。そしたら彼の顔見られるし、何考えてるのかも聞けるから安心でしょ?」
「う、うん…」
はっきりしない返事に少しイラつく。ホントに初恋の人と上手くいくかなんて、私にもさっぱりわからない。

「じゃあ元気出して。また連絡するから」
「うん…ありがとう。レイラ、彼によろしくね」
最後は無理して明るく電話切ったけど、あの子のことだ、きっと今頃落ち込んでる。

「…っとにもう、三浦君ってば…」
初対面の時、ミリには彼しかいないって思えたのに、この有り様。何だか許せない。

「メールしといてやろうかな。ミリをほっとくなって…」
スマホ片手に持ち直し、アドレス開こうとしたら、急にバイブ音が鳴り響いた。

「わっ!び、びっくりした…」
届いたメールの名前確認して、更に驚き。

「時田尚樹…」
(そっか。なおきって名前なんだ…)
新ためて知った感じ。多分、研修の初日の時に、フルネームで挨拶してる筈なのに…。
ドキドキしながらメール開く自分が、なんだか可愛く思える。こんな初々しい恋愛するのなんて、すごく久しぶり。

『初めてのメールでかなりキンチョーしてます…今日はありがとう。明日また病院で会いましょう。尚樹』
短い文章に感動してる私って単純。

「あっ!返信しなきゃ。え…と…」
こういう場合、ミリならスラスラ文章が浮かんでくるんだろうけど、どうも私は苦手。文字より口で喋った方が上手く伝えられそう。

「とにかく、お礼は返さないとね…」
トントン…と画面に文字打ってく。その一文字一文字、自然と気持ちが込もった。

(こんな簡単な文章なのにね…)
『私こそありがとう。明日、外来勤務なんだけど、会えるかな』
普通はここで、会いたいなって打つんだろうけど、私にはムリ。どうも照れ臭い。
情けなくなりながらも送信。するとすぐに返事が来た。

『必ず会いに行きます。野暮用作ってでも』
「ええーっ!ど、どうしよう…」
バカみたいに慌ててる。これじゃあミリの事言えやしない。
ドキドキして手が震える。こんなの今までだって、経験してきた筈なのに。

『嬉しい…待ってます♥️』
「あっ…私ってバカ!♥️マークなんかつけて、ドン引きされちゃう!」
一人で騒いでる。

「…消そう」
冷静になって、落ち着いたつもりだった。

「きゃーっ‼︎ 」
間違ってそのまま送ちゃった時点で、かなり舞い上がってたらしい。
冷や汗かきつつ、でもどうにもならない事実に少し呆然。今頃、時田君、どんな反応してるだろ…。

(は…恥ずかしい……)
絶対、自分のキャラじゃない事してしまった。できれば時を戻したいくらい…。
ビクッ‼︎ 早い…もう返信きた…。
ビクビクしながら開く。読んだら満面の笑みを浮かべてる、彼の顔が想像できてホッとした。

『♥️マークついてて嬉しかった!明日が楽しみ!』
「追伸、只今研修レポート作成中か…。大変だな…」
自分も看護の実習レポート書いてきてるからよく分かる。コレって、案外難しいのよね。
邪魔になるのもいけないし、遠慮しとこうかと思ったけど…

「やっぱメールしよ」
応援したいから。彼のこと。

『お疲れさま。体壊さないようにしてね』
今の私の素直な気持ち。これまでいろんな研修医と会ってきたけど、中にはやはりいたから。途中で体調崩してしまう人…。
コンタクト外して、お風呂に入る準備を始める。もう戻ってこないだろうと思ってたメールが入ってきたのは、その直後だった。

『今の一言で疲れ飛んだ! サンキュー✌️』
砕けた文字に親近感。彼のこと思うと、何だか心があったかい…。
(素直に泣いたから…?)
弱いとこ見せたから、気持ちがギスギスしていないだけ?でも、今の自分が一番好き…。

………人は、弱みを見せる勇気を持った時、それまでになかった世界が広がっていく。新しい自分の衣を纏い、歩きだせる………

いつだったか、ミリが真剣に読んでた小説の言葉が思い出された。

(今、私…新しい衣、着たのかな…)
人の目なんて、気にしたことなかった。でも、彼の目は気になる。

(神様…どうかお願いします…。時田君の前では、素の自分でいられますように。そして彼も、素のままでいてくれますように…)

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