うん…。本当はわかってる。今しなければならない事は、こんな事じゃないって。
机の上に山積みにされた資料の束、スケジュールが沢山書き込まれたカレンダー、白紙の原稿用紙…
朝には、出来上がってないといけない筈のエッセイ……
でも…

「あーっ !! ダメだぁー !! 何も浮かばないっ!!」
思わず大きな声が出ちゃうくらい、今の私は行き詰まってた。
大学を卒業して三年、ツイッターに書いてた文章を集めて、雑誌のエッセイ募集に応募したら最優秀賞に輝いてしまった。
もともと、言葉で遊ぶのは小さい頃から好きだった。詩も俳句も短歌も、単語を組み合わせる事に、苦痛を感じた事はなかった。

「将来の夢は?」
と聞かれて

「エッセイスト」
って答えるような、そんな子供だった。
そんな子供の頃からの夢が叶った日、本当に本当に嬉しくて、誰彼構わずお礼を言いたくなった。

「ありがとう…今までの全てに感謝します…!」

それなのに…

「あーもうっ!! なんでそんな事思ったの私!本当は才能も何もないのに……」
ドンッ!!て、思わず机を握り拳で叩いてしまった。八つ当たりしたって仕方ないのに…。


「今回のエッセイのテーマは、“ 恋と愛の違い ” についてお願いします」

一カ月前、A出版の三浦さんから頼まれた仕事。雑誌の春号に掲載する記事だ。

いつものように

「わかりました。締め切りは来月の十日ですね。頑張ります!」
と返事して電話を切った。
あの時は
(大丈夫!何とかなる!)
そう思った。でも…

「何とかなる訳ないじゃん!恋も愛も、経験ないのに……」
二十五歳の若い女性が言う台詞じゃないって事はよくわかってる。でも、本当なんだから仕方ない。生まれてこの方、誰かを好きになった事なんてないし、ましてやそんな違いなんか、わかる筈がない…。
勿論、いろんな人から一応、話は聞いた。三歳上の姉の恋愛中の過程と、結婚した今との違いとか、ツイッターで知り合った女子高生達の恋バナとか…。
恋愛小説もそれなりに読んでみたし、話題になったドラマや映画も観た。
合コンにも参加して、いろんな男性と話巡り合う機会も持ってみたけど、心ときめくような人はいなくて……。

「……いいじゃん! どうせエッセイなんて上っ面だけなんだから、適当に書いとけば~」
友人のレイラの言葉が蘇る。つい一週間ほど前、居酒屋で飲んだ時、私の話に答えたものだ。