私たちはそのまま一緒に教室に戻った。

「よかったな

声、出せるようになって」

「うん!」

「どうしていきなり出るようになったんだ?」

私は数分前のことを思い出した。

「一生懸命お願いしたの。

佐野くんを呼び止めるための声をくださいって…

そしたら願い事、叶っちゃった」

「なんだよ、その可愛い願い事…」

「か、可愛い…!」

「ばか、そういう反応されるとこっちも困るから…」

お互いが照れてそっぽを向いた。

「でも、しゃべる櫻田っていうのは、なんか違和感だな…」

(あ、苗字に戻ってる…)

少し残念に思えた。

「おい、どうしたんだ」

「別に、なんでも…」

私はほっぺたを膨らませてみせた。

「あんたは俺が何でもお見通しなことを忘れたのか?」

「え…?」

彼は私の耳元に唇を寄せた。

「珠李」

一気に体中の熱が顔に集まるのがわかった。

「そ、そういうのはズルいよ、だめだよ…」

「じゃあ櫻田でいい?」

「だ、だめ!」

「わがまま」

「ふ、ふつーに呼んでほしいの!」

優しい彼だけど、こういう時は意地悪みたいだ。

(でもこういう佐野くんも好きだな…)