次の日の朝、私は無事退院した。

今は、佐野くんが私を家までタクシーで送ってくれているところだ。

「家には誰かいるのか?」

私は首を横に振った。

「いないのか?

でも医者は親に連絡したって…」

おそらく命に別状はないと聞いた父親は、そのまま安心して仕事に励んでいることだろう。

私は携帯で文字を打って佐野くんに見せた。

”ひとり暮らしだから”

「そうか」

彼はこれ以上深く踏み込んではいけないと思ったのか、何も聞いてこなかった。

「ひとりで大丈夫か?

不安なら、俺が一緒にいてやる」

(そんな風に言われると、甘えたくなっちゃう…

でもこれ以上佐野くんに迷惑はかけられないし)

「これ以上俺に迷惑かけられないとか思ってるのか?」

(え、心の中読まれてる…?)

「図星だな。

変な我慢はするな」

そう言って彼は優しい表情を見せた。

(今日は佐野くんに甘えさせてもらおう…)

私は佐野くんの袖をきゅっと掴んだ。

「うん、いいよ」

佐野くんは私の頭を優しく撫でてくれた。

タクシーが私の家の前に到着する。

私たちはふたり一緒にタクシーを降りた。

「ひとり暮らしって聞いてたから、アパートかマンションを想像してた。

普通に立派な一軒家…」

彼は私の家を見て驚いていた。

私はとりあえず佐野くんを家に入れることにした。