居酒屋・ディオニューソスでは、
酒の神のバッカスが忙しそうに客のワイン
グラスに酒を注ぎ、彼の下で働く屋敷の神のアスハ( 阿須波 ) はせっせと働いていた。

「ソーマ三本」

「アスハ。ブラッドワイン頼んだよ」

「かしこまりました。バッカスさん、ソーマ三本とブラッドワイン一本です」

「はいよ」

バッカスは髭を生やした親父で、アムールが出来たばかりの遠く昔からここの店を経営している。

アスハは、日本らしいさらりとした顔立ち
をしている。

そういった顔立ちをしている神は、 アムール国では三分の一程度であり、三分の二は
はっきりとした顔立ちをしている者が多かった。

尊の国へ行けば、アスハの様なさらりとし
た顔立ちをしている者は数多く存在する。

ピアノの音色を優しく奏でているのは音楽の神、ヘリオスだ。

ここは全てが木で出来た小屋であり、酒好きの神達はこぞってここへ通う。

中には、居眠りをしている者や酔っ払いながら、ぺちゃくちゃ喋っている者。一気飲みをして具合の悪くなった者。泣きながら愚痴を吐き 酒を飲む者。

客は、実に様々である。

ここには二階があり、二階は宿屋となって
いる。それも4部屋しかない小さな宿屋だが。

......ギー

客達が酒に酔って賑やかになっている
最中、木で出来た扉を開く音がした。

彼は、木の床板に足音を立てながら店の中
を歩いて来る。

「あーらー。カゲンじゃなーい」

彼女は、 ダーナ。 大地母神でダーナ神族の
母であり、火と かまどと生命と詩歌の女神
である。

その言葉を聞いた者達は皆、彼に注目をし
賑やかな雰囲気で彼を歓迎する。

「やー、カゲン。驚いたよ」

「最近の調子はどうだい?」

「最悪だよ」

彼は質問の要望にお答えした。

そして、マルタで出来たカウンター席に座ると言った。

「ソーマで頼む」

ソーマは、人間界で言うビールみたいな物
で この世界では無難な酒である。色は白
い。

バッカスはすぐさま慣れた手付きで酒を樽
から注ぎ、彼の前のカウンターテーブルに
それを置くと言った。

「今日はどうしたんだ、カゲン」

「見ろよ、この今の俺の無座間な姿を! 俺は戦いの神だ。戦いの神がダンベル一つ
持てない、そんな神......今まで前代未聞
だろ?」

「そうかもな」

バッカスはワイングラスを磨きながら言っ
た。

「いずれストーンは元通りになる。それま
で少しの辛抱だ、カゲン」

するとアスハが話に入り、こう言った。

「そうですよー。カゲンさんのファイヤー
ホース、ストーンが元に戻ったらまた
見せてください」

澄んだ瞳で彼はカゲンを見つめた。

「あぁ............喜んで」

少し疲れた様な口調で、彼はそう言うと
ソーマを一気に飲んだ。