……黒いつばさのニックスが、
 暗く深いエレボス(闇黒)の胸の中に 
 風にはらんだ卵を生んだ。季節がめぐって
 待たれたエロスが産まれ出た。金の翼をかがやかして。

 『喜劇作家アリストパネス(前五世紀)』より。

※※※※ ※※※※

アムール国の とある自然が実る草原では
この夜、月や星は煌びやかに輝いていた。
そこの草原の上にぽつりと座り込む二人の親子は話をしていた。

「あの星、骸骨みたい!」

赤色の髪が情熱的な印象の少年は、面白そうに夜空に輝く星を見詰めながら言い出した。

「そうだな。ヘルヘイム帝国の神の誰かが死んだのだろう......」

「ヘルヘイム帝国?」

「あぁ。あの星をもう一度よく見て見なさい。あの鎧は、ヘルヘイム帝国の武装だ。あそこは死者の神達の縄張りなんだよ。だから、お前とは決して縁のない帝国だ」

「ふーん。父さんはヘルヘイム帝国に行ったことはあるの?」

「実は一度だけあるんだ。ヘルヘイム帝国にしか存在しない特別な剣があると言う伝説があってな。私は、その剣を求めてあの帝国へ行ったんだが......あえなく挫折した」

「え?! どうして?!」

少年は大きな声で訪ねた。

「私の力不足だったようだ。その剣を固く見張るアヌビスと言う神がいてな。彼らと私は剣を巡って戦ったのだ。そして、私は......あえなく挫折した」

「父さんは世界一強い神様なんじゃないの?」

「いいかい? この世には凄まじい力を持った神が何千と存在する。私はその何千人のうちの一人に過ぎない。パワーのある神は山程いるのだよ」

「僕も強い力のある神になれるかな?」

「ハッハッハ、なれるに決まっているだろう。私の息子なのだから」

「うん」

この日は最高の夜だった。......まさか、
今日が父と話す最後の日になるとは知るよしもない事であった。


翌朝、彼は目覚めるとベッドから抜け出して食卓の方へ足を運んだ。いつも、彼が目覚める頃には必ず父さんが朝食をとっているのだ。
 しかし、今日は父さんは食卓にいなかった。いつも必ずと言っていいほど父さんはこの時間帯に朝食をとっているのだが、どうしたのだろう?

彼は、きっとまだ寝ているのかもしれないと思い父さんの寝室の方へ足を運んでみた。
 だが、そこにも父さんは居なかった。
寝室のベッドは不自然にも寝たような形跡はなく、昨日の綺麗に敷かれたシーツと布団そのままである。もしかすると昨日の晩、俺が寝静まっている間に何処かへ行ってしまったのだろうか?
そんな思考が幼い少年の頭を横切っていった。

すると、突然不安になり......。

外へ出ると彼は父さんを探し始めた。
アムールの闘技場、草原、噴水広場、アムール城周辺、居酒屋•ディオニューソス..................と、もうアムール国は全て探し尽くしたのではないだろうか?

 もうクタクタである。
しかし、足を止めなかった。

「誰かー、父さんを見ませんでしたかー?」

「いや、見てないなー」

だが、決まって父さんの行方が分かる様な返事は一つも無かった。

 その日、父さんは見つからなかったが
来る日も来る日も彼は探し続けた......。

しかし、とうとう見つかる事はなかった。