鏡の前の自分を見ると、いつも虚ろな気持ちになる。

これから俺は偽りの自分になるのだ。

シャワーを浴びて、コンタクトレンズを付けて、真っ白なシャツに身を包む。

(髪の毛伸びたな……)

ワックスを付けた手で無造作に前髪を掻き上げれば、長年の経験で培ってきた“鈴木貴士”像の出来上がりだ。

時々、バカらしくなるが社会で生きるために武装が必要ならばそれに習うまで、と己に言い聞かせる。

壁一面に作られた収納棚には、夥しい量のフィギュアと、DVD、ゲームの類がぎっしりと詰められていて、その惨状に時々目を覆いたくなる。

仕事は上手くやれている方だと思う。人当りだって悪くない。

けれど、本当の自分は皆が思っているような完璧な人間ではない。

私生活は至って地味そのもので、高尚な趣味だって持ち合わせていない。

不器用、と他人は言うのだろう。