【慶Side】


 卒業式が終わった翌日、朝7時。


 いつもと変わらず店番をしている俺。


 最近では早起きも苦じゃなくなってきた。


 俺に店を継がせることが両親の夢。


 そしていつからか、それが俺の夢になっていた。


 ……大体、勉強とかガラじゃねえし。


 働くってのも、ガラじゃねえけど。


 花屋の日常ってのは単調で、力仕事が多い。


 朝市で親父が買い付けた花の処理して、水替えして。


 鉢植えなんかの枯れた花弁や葉を取り除いて。


 汚くなった地面をきれいにほうきで掃く。


 ……ちなみに、フラワーアレンジメントってやつは、まだ勉強中だ。


 準備が一通り終わって一息ついた、そんな平和な午前8時半。


「宮下さんは、もう俺のだから」


 店を開く30分前。


 従業員出入り口から入ってきて、俺の目の前にいきなり現れてそう言ったのはコイツ、恭也だった。


 しばらく口もきいていなかったし、メールもエラーで戻ってくる、電話も出てくれない。


 おまけに学校で話しかけてもフルシカト。


 バイトだって来なくなって、おふくろに聞けば「辞めた」の一言で。


 そんな恭也がここまで来て、何を言うかと思ったらそんなことだった。