4 クラッチ


明日、なにがあるか分からないから。

会えなくなるかもしれないから。

だから、あたしは、伝える。


***


「いたた……」

 腰に手を当てて、さすった。立ち仕事なのにきついなぁ。疲労感もあるし。

「真白ちゃんたら、おばちゃんみたい」

「いやぁもう歳なんで……昔みたいにオールで飲みとかできない」

「なに言ってんの」

 奥さんは、大きな炊飯器のご飯をかき混ぜている。炊き上がったようだ。

「腰痛?」

「たぶん、筋肉痛だと思います。昨日の教習でバイク倒しちゃって、起こし方をしたから」

 普段使わない筋肉を使っているのか、教習のあと、あちこち痛い。
 なんとなくコツを掴んでいるようだけど、結局、引き起こしをやると腰に負担がかかる。筋肉痛だとは思うけど、そのうち腰を痛めてしまいそう。

 もう終盤なんだ。2段階の見極めまであと少し。卒検まであと少し。

「気をつけなさいよー。怪我したら大変なんだから」

 キャベツの入ったダンボールを持って厨房に入ってきた店長が「うおー」と言いながら拳で腰をトントンやった。それを見た奥さんはちょっとため息をつく。

「あっちは歳」

「……はい」

 サクラクック、今日も平和だ。


「今日の日替わりは焼鮭、煮物と漬物と……」

 店長の読み上げをホワイトボードに書き込んでいく。日替わり弁当の中身だ。ボードの評判は上々で、読んだお客さんは、分かりやすいみたい。あれから、シールなんかでちょっとデコって、華やいだ感じにした。バイクのシールを見つけたから、それを端っこにこっそり貼ってみた。

「丼類の容器、昨日届いた分は倉庫にあるから」

「分かりました。もうすぐ無くなりそうなのであとで持ってきます」

 髪の毛を縛りなおして、三角巾をビシッと。よし、今日も抜かり無し。(たぶん)


 開店と同時にお客さんが来る。今日は忙しくなるだろうか。光太郎さんは来るかな。

 光太郎さんはこれまで、欠かさず毎日サクラクックのお弁当を買いに来ているわけじゃなかった。でも、ここ最近、来てないなぁ。と言っても、たかが数日なんだけど。パンを食べたくなってるのかもしれない。うち、サンドイッチとか無いもんな……。

 タケさんと誠太郎さんと3人でお昼ご飯を食べたのが10日くらい前か……。今日までの間に3回ほど教習があったけど、帰りにミナセに行ってない。別段、用事も無いし……。というか、予約してたのが2時間だったりすると、疲れててすぐ帰りたくなっちゃう。

 ミナセ駐車場での練習、2回で終わっちゃったなぁ。