「小説なんてねぇ…どうでも良い存在なんだよね。別に無くても誰も困らない」


不意に思い出したのは――ベストセラー作家のそんな言葉だった。


彼の表情は自虐的でもなく、押し付けるものでも無かった。


もしかするとそれは私に告げたのでは無くて、彼自身の呟きだったのかも知れない。


それでも――彼は、その後でテーブルに身体を少しだけ乗り出して言葉を続けたのだ。


「でもさ…そのどうでも良いモノがね、人生を変えたり――世界を変えたりするんだな。どう?愉快だと思わない?」


私と彼と――恋愛小説。