【傭兵の咄】
その少年兵の名を“マスラ”という。
マスラとは、この国の言葉では“勇猛果敢で猛々しい者”を意味する。
しかしマスラにとって、その名はあまりにも不似合いに思えた。
勇猛ではない。
ただ少しだけ、周りの子供達よりも好戦的だっただけに過ぎないのだ。
それは決して“勇”ではない。
むしろマスラのような人間は“鬼”と呼ぶべきである。
マスラは兵舎から出て、しばらく兵舎の裏に広がる森の奥へと入り込んで行った。
闇が支配する夜の森の中でも、どうしたことか、マスラの紅い瞳には、その咫尺を弁ぜぬ闇の先が鮮明に見えていた。
そうやってしばらく来たに歩き続け、マスラが到達したのは、小さな池のほとりであった。
そこだけ木々が開けていて、天からは月光が降り注いでいる。
マスラはそのほとりに座り、じっと、池の水面を覗き込んだ。
当然ながら水鏡に映ったのは、紅い瞳をぎらつかせた自分自身で有った。
「ーーー」
マスラは暫時、その水鏡に写った己を見つめていた。