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『ねえ……あんたさ、産まれたい?』

『まあ、そうだよね。
せっかく宿ったわけなんだし。
けどさ、聞いてよ』

『あたしの男がさ、産まれたら俺んとこに引き渡せ、っつーの。
あたしはどっちでもいいんだけど』

『やっぱ、鬼は怖がられるじゃん。
だったら、人の世界で育って欲しいんだよね。
あんたがどんな性格の子かは、知らないけどさあ』

『でも、あたしみたいなアバズレにだけは、なっちゃだめだからね……』


そんな声を、少年は何処かで聞いた気がした。


街の中心部に、円柱型の奇妙な建物がある。

全体を灰色のコンクリートと防弾ガラスで構成された、巨大な塔である。

少年はその建物の三階にある、広い部屋の中にいた。

約十畳あまりにもなる、広すぎるほどの一室だった。

そんな部屋の各々の角に、ベット、テーブル、本棚が置かれているのだ。

のびのびとしていい部屋にも見えるが、その部屋には押入れもクローゼットもなく、まるで監視をするために用意されたような部屋である。


「あら。
嶺子(れいじ)くん、またスプーン齧っちゃったのね」


広い部屋の隅に、ポツンと置かれたテーブル。

そこに少年とさし向かって座っているのは、白衣をまとった女だった。

いかにも科学者といった風体の女だ。


「……ごめんなさい」


少年はしゅんと肩を落として、謝った。

その手には、小さな“歯型”のついた、鉄製のスプーンが握られていた。