ケータイ小説 野いちご

カクテルに恋の魔法を。

第十話 恋の魔法


 律のビックリな告白に、私も溝内さんも、開いた口が塞がらなかった。

 申し訳ないけれど、本当の、本当に? なんて、私はどうにも信じられなくて、疑ってしまう。

 すると、そんな私よりも、溝内さんは早くに自分を立て直して、バカバカしいと笑った。

 「嘘を吐くなら、もっと上手い嘘を吐くんだな。社長に、お前みたいな若い息子がいるだなんて、俺は聞いた事がない」

 確かに……。

 私は、溝内さんの意見に、同感だった。

 だって、その通りなの。私も、社長に息子がいるだなんて、一度も聞いたことがない。

 普通に考えて、そういうことって、噂になりやすいと思うのよ。

 特にうちの部署では、情報のアンテナを張り巡らせている女の子ばかり。なのに、全くそんな噂を聞かないなんて、おかしいわ。

 でも、それは社長が言わないと、誰も知ることはないし、噂にもならない。

 って、ことは、やっぱり本当? それとも、この場を凌ぐための嘘??

 私は判断が出来なくて、困ってしまった。

 だって、いくらなんでも、こんな直ぐにバレるような嘘を吐くなんて、私は社長に失礼だし、馬鹿げていると思える。

 でも、律の言葉を信じられるかって聞かれたら、私は100%で頷けない。

 私とは違って、溝内さんは分かりやすいものだった。

 100%と言い切れるほど、自分自身の考えを信じ、律を疑っているのが見て取れる。

 彼は呆れたように、吐き捨てるように笑うと、直ぐに続けた。

 「だいたい、社長の息子が、メッセンジャーボーイなんかになるわけないだろ! バカにするな!!」

 律は、溝内さんの指摘に目をパチクリとさせると、笑って続けた。

 「いやだな、溝内さん。僕がメッセンジャーボーイになった理由なんて、溝内さんはもう知っているじゃないですか。自分で今、言ったでしょう?」

 何を言われても、動じない律。

 うろたえるどころか、律は余裕を見せるような態度で、それは、溝内さんを怯ませる。

 「な、何が言いたいんだ!!」

 「何がって、まぁ、いいですけど。つまり、僕がメッセンジャーボーイになったのは、自身の顔を売ること。それが、目的でした。そして、更に言うならば、社内の動きを把握することでもあり、権力者に媚びる者の裏の顔や、普段の仕事の態度も見たかった。下の人間に対する態度もね」

 「―――っな!?」

 溝内さんは、驚きの声を上げるだけで、それ以上は何も言わない。ううん。言えないんだと思う。

 私なんて、ビックリし過ぎて、小さな声も出なかった。

 リアル過ぎる理由に、じわじわと、律の言っていることが正しいのだと、偽りなどないのだと、感じさせる。

 律は私たちに代わり、スラスラと続けた。

 「まぁ、それらに関しては、溝内さんはなかなかレベルの高い人です。仕事も出来る。人当たりもいい。目立ちたがり屋は、よく働いてくれますからね。こういうことをせずに、ぜひ、頑張ってほしい人で、僕はあなたを評価しています」

 「な、なにを偉そうに。う、嘘だ!! 信じられない! お前、若すぎるだろ!!」

 「若い?」

 キョトンとする律に、溝内さんは頷いた。

 「そうだ。俺は昔、社長と一度だけ飲み会の席で、一緒になったことがある」

 「それが何か?」

 「それが? それが証拠なんだよ。俺はその時の会話を、誰にも話さなかったし、多分、殆どの人間は知らないだろうが、俺はちゃんと、社長本人から聞いているんだ。息子がいる話をな!」

 「そうですね。僕がそうですから」

 「だから! 俺は、そんな若い男だとは聞いていないんだよ!! 確か俺よりも、年上の男だったはずだ。お前のはずがない!!」

 必死に否定する溝内さんに、律はゆったりと返し、最後には可笑しそうに笑う。

 そして、子供を見るような目をすると、続けた。

 「何か、勘違いをなさっているようですね」

 え?

 律の様子に、私はドキリとする。溝内さんもそれに、戸惑っているようだった。

 「言っておきますけど、僕は童顔なだけで、こう見えて33歳ですからね」

 「「は!?」」

 衝撃の事実に、私は耳を疑った。

 あまりにも予想外な告白に、私も溝内さんも、同時に声を上げて、ポカンとする。


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