ケータイ小説 野いちご

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カクテルに恋の魔法を。

第九話 魔法


 ドキン、ドキンと、うるさい心音。

 心臓が壊れちゃうんじゃないかと、そう思えるくらいうるさくて、私は混乱する。

 なに、これ。なんなの、これ?

 これって一体全体、どういう状況なわけ??

 どうして私が、律に押し倒されなきゃならないの??

 私の両手は、律に拘束されたままで、とてもじゃないけど、逃げられそうにもなかった。

 男の力に、女は敵わない。いくら高身長で、可愛く見えない私でも、そんなものは関係ないのだと、私は身をもって知った。

 いくら自分が、周りの可愛い小さな女の子と違っても。

 いくら自分が、それを卑下して悲しんでも、男女の力の差は当然ある。

 でも、こんなにも威圧感をもって押し倒されたら、身も縮むものだと思える。

 力だって、入らないわよ……。

 怒る律が、こわいと思った。どうして、そんな顔するの?

 どうして、こんなことするのよ……。

 「り、律。離し―――」

 「嫌です」

 な――……

 やっとの思いで口を開くも、私の言葉は律に遮られた。

 「ねぇ、歌子さん。どうしてそんなに、僕の神経を逆なでするんですか?」

 さ、逆なでって、私は別に、何もしてないじゃない。

 私が悪いの? 私の何が悪いのよ。

 私は当たり前のことしか、言ってないのに。

 なのに、どうしてこんなことをするの? 意味が分からない……。

 私は、見下ろされたまま、決して逸らされることのない目線に、どうしたらいいのか分からない。

 心音は速まるばかりで、私の判断力はどんどん鈍ってゆくようだった。

 いやだ、もう。どうしてこんな……。

 もう、やめてよ。こんなこと、しないでよ。上手く息ができなくて、息苦しくなる。

 なんとかして、逃げ出さなくてはと、そう思えた私は、グッと、手に力を入れると、必死に抵抗した。 

 「――――っは、離して律! 離さないと殴るわよ! 私、ほ、本気だから!!」

 「どうやって?」

 「――――っ!!」

 律はクスリと笑い、ほんの少しだけ、私を拘束する力を強める。

 痛くはない。でも、抵抗しても無駄だと悟らせるには、十分すぎるもので、私はなす術がなく、何も言葉が出なくなった。

 グッと、唇を閉ざし、何も言えない私に、律は続ける。

 「僕に押さえつけられたままで、よく言えますね。ちょっと力を加えれば、そんな風に言葉も失ってしまうくせに。出来やしないことを言っても無駄ですよ。ね? 可愛くか弱い、囚われの歌子さん……」

 フッと、笑う律の目が、私に絡みつき、低めに発せられるその声が、私の耳に響いていた。

 ドキンッと、心臓が跳ねて、混乱する。何なのよと、そう、思えた。

 私を振り回す律は、いつも私をからかってばかり。これも、そういうこと?

 私を、からかってるの?

 どうして、こんなことが出来るのよ。

 私は悔しくなって、奥歯にグッと力が入った。

 いつも、いつも。いつだってそう。もう、いいかげんにしてよ……。

 こんなことをして、簡単に私の心拍数を上げて、律はどういうつもりなの?

 私は律の言動で、律が思っている以上に、混乱して、わけが分からなくなっているのに。

 それ、分かってるの?

 私ばっかり、こんな気持ちにさせられて、冗談じゃないわ。

 何が楽しいのよ!!


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