ケータイ小説 野いちご

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カクテルに恋の魔法を。

第七話 社員旅行


 うちの社員旅行は、支店とは日程をずらしているけれど、一応は公平に、全社員が行くことが出来る。

 当然、うけもっている仕事の都合で、不参加な人もいるけれど、なるべくたくさんの人が参加出来るように、仕事を終えてからも、駆け付けることが出来るような近場を、行先に選ぶのが定番だった。

 去年は山。そして今年は海。

 もちろん近場なのだから、ハワイでもなければ、グアムでもない。

 日本国内であり、飛行機に乗る必要もない場所で、沖縄でもなく、個人的に行った人も多いような場所だった。

 私たちはそこで、一泊二日の旅行を満喫する。

 満喫といっても、海の見える旅館で、会席とお酒で宴会。……なんて、そんなものではなくて、まるで学生の旅行のような、そんな社員旅行だった。

 海で遊び、浜辺でバーベキュー。夜はすぐそばのコテージで宿泊をし、そのコテージ前には、大きな広場もあって、そこで夕食にカレーを食べる。

 実際にその場所は、私立高校や、大学生の夏合宿に使われることも多い場所で、たぶん何人かは、学生時代に来た人もいると思う。

 要するに、人がたくさん集まるにはいい場所なのよね。団体様向けなのかもしれない。

 海はあるし、広場もある。コテージ数は多し、そしてその室内設備も充実している。そんな好条件なんだから。

 こんな話を人にしたら、大手の会社のくせにと、ちょっと安っぽい旅行に思われがちなんだけど、それはそれなりに、いいこともあるのよ。

 なぜなら、こういう旅行は、海外に行くよりも予算が削減されて、他にその予算を回せるのがいい。

 例えば、忘年会シーズンの予算とか、まぁ、色々。慰安会的な、回数が増える。 

 会社の意向としては、社内の親睦を深める機会を沢山もち、結束を強めようって、ことらしいけど、チャンスが増えるこのシステムは、うちの課の女の子たちからすれば大歓迎なことで、嬉しいことだった。

 もちろん、私も。だって、慰安会の回数が多いってことは、その数回に一度は、今より溝内さんに近づけるかもしれない。

 逃してばかりのチャンスが、今度こそ、つかめるかもしれない。なんて、そんな風に思える機会が、多いってことだから。

 そりゃ、正直に言えば、一日中一緒で、長時間過ごせるこの旅行が、飲み会のような短時間よりも、貴重なチャンスであることには変わりはないけれど。

 それくらい、ちゃんと分かってはいるけれど、でも、チャンスがこれだけで終わったわけじゃないし、いつまでも落ち込んだままでいる子はいないと思う。

 私だって、旅行前に仲良くなれなかったのは残念だけど、それでも、プラス思考に考えるなら、オフモードな溝内さんを見ることが出来る社員旅行は、それなりに楽しみにしていいことだと思っている。

 きっと、同じような意見の女の子は、私の他にもたくさんいて、そして今頃、待ちに待った今日この日を、みんなドキドキして、朝を迎えているに違いない。

 晴れ晴れとした、最高のお天気。月曜日の朝。社員旅行の日。

 そう。本当なら私だって、もう少しドキドキとしていても、いいはずだった……。

 なのに私は、とてもじゃないけど、そんな気分にはなれなかった。

 ウキウキと心が弾むどころか、ずぅ~んと、気が重くて、溜息が出る。だって、昨日の今日よ。記憶喪失でもならない限り、秋保ちゃんのことを忘れられるはずがない。

 まさか、あんなところで偶然に、秋保ちゃんに会うだなんて……。


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