ケータイ小説 野いちご

カクテルに恋の魔法を。

第六話 スマイルゼロ円


 律から逃げるように帰ってきた私は、部屋で一人、暴れていた。

 律を思い出しては両手で顔を抑えたり、首を振ったり、テーブルに突っ伏したりと、私は暴れることに、とにかく忙しくて、自分でも何をしているんだと、呆れるくらいだった。

 でも、そうでもしなきゃ、この恥ずかしいような、ムズムズするような、こそばゆい感情を、私はどう処理すればいいのか分からなかったのよ。

 いったい、私はどうしちゃったんだろう。

 もう、考えたくないのに。

 もう、思いだしたくないのに。

 そんな私の意志とは正反対に、私は律の言動を頭の中で再生してしまう。

 鮮明に残る、律の姿。私を見つめるあの目。

 キスが出来そうなくらい、近い距離で見たアイツは、妙に色っぽくて、反則だと私は思った。

 って、いうか。律はそのすべてが詐欺的で、反則なのよ。

 律の言葉だってそう。

 アイツの告白は、ビックリするくらい耳に残っていて、私の心拍数は上がりっぱなし。

 どれだけ耳をふさいでも、私の中で再生されるその声を防ぐ方法などなかった。

 なんなの? これって、何かの魔法??

 心臓が私のものじゃなくなったみたいで、どうしたらいいのか分からない。

 もう嫌だと思った。すごく、疲れると思えた。

 律は私の前にいても、いなくても、私を振り回すのだと、そう気が付くと、私はとても困ってしまう。

 だって。これから毎晩、私はあのバーに行くわけでしょう?

 当然、律はそこにいる。

 「ううっ」と、私は困ったように唸ると、床にゴロリと転がった。

 そしてすぐに、手の平で両頬をグリグリとしてから、大の字になって、溜息を一つ吐いた。

 「はぁ~」と、吐き出されたその息は、とても疲れている。

 ダメ、ダメ。気持ちを、入れ替えなきゃよね?

 いつまでも、律に振り回されているとか、変よ。絶対、変。

 もういい。もう、考えない。

 うん、うん。と、私は自分に言い聞かせるように頷いた。

 そもそも、あれよ。うん。

 私がシッカリしていればいいだけなんだから。ね?

 



  *





 日はまた登り、また落ちて、約束の日曜日の夜がきた。

 私は約束通りバーまで来ると、扉の前で足を止める。

 ドアノブに伸びる手。けれど扉は開かない。

 触れるまであと数センチの距離で、私のその手は、ピタリと止まっていた。

 「―――――……」と、無言で私はドアノブを見つめ、目の前の扉を開けることに、迷いが生じる。

 たぶん、扉を開けることを躊躇う私は、律を警戒しているのだと思う。

 アイツはまた、歯の浮くような台詞を連発するんだろうか。

 そう考えると、律に言われた言葉の数々を、つい、私は思い出してしまった。

 あぁ。また……。

 思い出すその記憶は、とても糖度が高い。

 私はそれで、おなかがいっぱいになった。

 もう、いいです。勘弁してください……。


< 49/ 104 >