ケータイ小説 野いちご

カクテルに恋の魔法を。

第五話 買い物


 どうしてこんなことに……。とは、勿論、思ってはいる。

 でも私は別に、律の手の平の上で、転がされているだなんて、全く思っていはない。

 だってこれは、自分でちゃんと、考えて決めたこと。

 私は、自分の意志で、律の提案に頷いたの。

 でも結果的に、律の望むような結果になったのだから、それで今日は終わり。

 それでいいと、思わない? なのに。律は私をこのまま逃がすつもりなど、全くないようだった。

 「どうぞ、召し上がれ」と、笑う律は、卑怯者で、すこぶる性格が悪い。

 人質ならなぬ、物質。バッグを返してもらえない私は、言われた通り、一緒に食事をするしかない。

 だって、バッグの中には携帯電話やお財布。定期だってあるわけで。

 それがなきゃ、ここから帰りようがない。もちろん寄り道も出来ない。それは、困る。

 どうせ律は、私に折れるつもりもないだろうし、こんなことをしているのも、時間の無駄。

 さっさと朝食だけ食べて、そして直ぐにでも、帰ればいい。それが一番だと私は思った。

 そうよね? ……なんて、まぁ、自分が折れる理由を並べて、朝食をとることを選んだけれど。

 正直に告白をすると、私が律に対して、強く反発し、もう帰るんだと、戦えなかったのには、理由があった。

 簡単に言えば、所詮は私も生き物だってこと。

 私はさりげなく胃のあたりに触れると、その手を下ろす。

 情けない話だけど、限界は近いというか……。

 実は私、かなり、お腹がへっているのよ。

 だって昨日、けっきょく律の作った料理を食べることが出来なかったし、お腹もへって当然だと思わない?

 だから、その。今にもお腹が鳴りそうで、ここを出たらすぐにでも、どこか軽食を取れる場所を探すつもりだった。

 初めは、帰ると言葉にしていた通り、なんとかしてバッグを取り戻して、一刻も早くここを出て行くんだって、思っていた。

 でも、「召し上がれ」と促され、テーブルの上に用意された朝食を見てしまったら、悔しいけれど一発KO。

 食べるくらいいいかって、思っちゃったというか、なんというか。空腹に負けた。

 別にこれは負け惜しみとか、言い訳でもなくって、私は律に負けたわけじゃない。

 私を引き留めた朝食。それは、なんとも美味しそうに、私を食べてと誘惑したの。

 わざわざランチョンマットを敷いて、その上に並ぶ朝食たち。

 食器は全て真っ白なもので揃えられ、シンプルなブラウンのランチョンマットは、その色を生かしている。

 完璧な舞台が用意されて、その場に盛り付けられたお料理たちは、ムカつくくらい視覚効果が素晴らしく、まさに完璧すぎる出来栄えだった。

 こんなのを空腹時に見せられたら、我慢するほうが難しいわよ。

 ただでさえ、曲者な律と言い合って戦うのも大変なのに、私はお腹が減りすぎて普通の状態じゃないんだから。


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