ケータイ小説 野いちご

カクテルに恋の魔法を。

第三話 こんな子だっけ?


 律は、本当に融通のつく立場のようで、あの後すぐに帰り支度をして、私と一緒に家路についた。

 到着した律の家は……って、言うより、マンションなんだけど。

 正直な感想を言えば、うそでしょ? くらいに、ビックリした。

 メッセンジャーボーイの仕事って、そんなにお給料がいいの? と、思ってしまったくらいよ。

 いや、でも……。

 ダブルワークしているくだいだし、多少は高い家賃でも払えるのかな。

 失礼ながらそんな風に思ってしまったけれど、それも仕方がないと、私は思うの。

 だって、けっこういいマンションなのよ。ビックリ。

 贅沢な広い部屋で、私の小さなマンションとは全然違う。

 リビングとは別にちゃんと寝室があるし、扉の数から見ればトイレバス別。

 しかも駅近という好条件で、窓からはそれなりの夜景だなんて、いったいお家賃はいくらなの?

 私だって一人暮らしだし、それなりの相場くらいは知っている。

 ここって確実に、高いわ。贅沢。

 おまけに律らしいというか、なんというか。

 リビングにあるキッチンは、対面キッチンで、壁にピタリとついたタイプじゃない。

 お料理している人の背中を見るわけじゃなくて、顔を見ながら話ができるそれは、カウンターテーブルまで備え付けられている。

 想像できる? もちろん、カウンターテーブルとセットで、オシャレなイスもあるの。

 これじゃまるでお店よ、お店。

 バーカウンターをそのまま持ってきたみたい。

 それこそ壁には、お店のように、いろんな種類のお酒が並んでいる。もちろんグラスも。

 キッチンも棚も含めて、これってたぶん特注よね?

 律は部屋の明かりをつけたけれど、それがまた蛍光灯の様なものではなく、間接照明だからか、部屋は更に、雰囲気のいいお店のように見えた。

 「どうぞ。適当に座っててください」

 え? あぁ、

 「うん。ありがとう」

 私はコクリと頷くと、カウンターのイスではなく、その後ろにあった、大きなL字のソファーに腰掛ける。

 座り心地のいいソファー。そんなソファの前には、大きなテーブル。

 家具の一つ一つが、いちいち高そうに見えるのって、私の気のせい?

 私なんてホームセンターで数千円なのに、律のって桁が違うような気がする。

 おまけに顔を上げれば、お店のようなキッチンだなんて……。

 なんか、凄いわ。

 っていうか、生活感があまりないのって、大丈夫なの?

 私はつい、心配するように口を開いた。

 「お酒の瓶とか、グラスがいい感じに並んでるから、お醤油とか似合わない部屋ね。御飯とか、ちゃんと食べてるの?」

 律は冷蔵庫を開けて、何かを作りながら笑った。

 手もとは、私の離れた位置からでは見えない。

「しますよ。でも、いわゆる男料理が多いですね。焼く、炒めるがほとんど。煮るとか揚げるはまずしないです。ちなみに醤油くらいはありますよ。棚に、隠していますから」

 「へぇ、そうなんだ」

 私は笑って頷く。すると律は、そんな私を手招きした。

 「歌子さん。こっち。ここのカウンターテーブルの椅子に、座って下さい」

 え?

 「うん。何?」

 私は、呼ばれるがままにそこへ行くと、驚いた。

 テーブルの上には料理が並べられていて、それがまた、完成度が高いと言うか、なんと言うか。

 ただ盛り付けるだけにしたって、センスがいる。

 それを短時間でチョイチョイとやってのける律は、素直に凄いと思え、私は椅子に座ることも忘れて、それを見つめた。

 だって、私は急に人が家に来ても、こんな料理を用意なんてできない。これって、凄いわよ。


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