──中二の秋、彼女は俺の前に表れた。



「……沢森恵梨です……」



ある日転校してきた少女は、そう名乗った。噂によれば沢森の家は俗に言う転勤族らしく、もう中学生になってから、五度目の転校だったらしい。



まあその時はとくに大きな印象もなく、ただ、大人しそうな奴だな、くらいにしか思っていなかった。



そんな沢森と、急激に距離が縮まったのは、中三の春。



別に狙ったわけでもなんでもなく、本当に偶然に、俺と沢森は同じ委員会になった。



図書委員になった俺と沢森。最初は全然喋らなかった沢森も、二人で委員会活動をしているうちに、次第に口数も笑顔も増えていった。