馬鹿に長い廊下には清子しか歩いてない。
私が一番乗りなんだな、と清子は部屋を探しながら考えた。


(二二五…二二六…二二七…二二八…あった!)

本田から貰った鍵を差し込み、カチャリと回す。

「ここが、私の部屋…」

広くはないが、狭くもないこの部屋が、清子はすぐに好きになった。

赤と白のチェックのカーテンを開き、窓を開ける。
爽やかな春の風が、さあっと吹き抜けて行った。

なんだか無性に喜びが込み上げてくる。

にやにやしてしまい、清子はベッドに飛び込んだ。

シーツはお日様と、かすかにミント香りがする。

「〜〜…!!!!!」

顔をぐりぐりと押し付けると、コンコンとノックの音がした。

「桜庭さん?失礼していいかしら?」

「あ!はい!」

慌てて飛び起き、扉を開けると恰幅の良い健康そうなお婆さんが立っていた。

「おやすみのところごめんなさいね〜〜私も今娘の家から戻ってきたものだから。おほほ、生徒さんに会いたくなっちゃって。本田くんに聞いたら貴女しかいないそうじゃない?」

そう言って人懐こい笑顔を清子に向けた。

「あらやだ!私自己紹介してなかったわ!私、寮母長の近藤菊といいます。お菊と呼んで下さいな。ごめんなさいね〜私ちょっとせっかちなところあるから…ほほ」

清子も微笑んで自己紹介をする。

「高等部一年になります、桜庭清子と申します。これからどうぞ宜しくお願いいたします」

「まあまあ、お行儀の良い可愛らしい生徒さんだこと。そうだ!貴女まだお昼まだでしょ?ちょっとおむすびでもこしらえますから一緒にどう?」

そう言われると清子は自分が空腹なのに気がついた。
同時に ぐぅー とお腹が鳴る。
身体は正直だ。

清子は少し紅くなった。

「おほほ。いいお返事ね、じゃあまた後でね」

「あ!お手伝いします!」

清子は手早く鍵をかけ、お菊さんの後を追いかけた。