ケータイ小説 野いちご

声を聞くたび、好きになる

4 変わる二人



 電話でイラストレーターの仕事を引き受けた二日後、芹澤さんが契約書を持って私の家にやって来ることになった。

 本来なら、ホテルのレストランや高級ラウンジ、本社の応接室などで契約を交わすらしいが、外出に慣れない私を気遣い、芹澤さんが家まで来てくれると言ってくれたのだ。


 約束の時間より十分早く、芹澤さんはウチのインターホンを鳴らした。

「はい!今開けますねっ」

 あわてて扉を開けると、凛々しい雰囲気をまとった長身の男性が立っていた。

 電話での話し方から、いい人感漂う優しげな男の人を想像していたけど、実際に見た芹澤さんは想像とだいぶ違う。

 切れ長の瞳。スラリとした手足。スーツを着慣れている感じがするのも手伝って、デキる男の人!そんなイメージだ。モモが芹澤さんのことをかっこいいと言っていたのもうなずける。

 流星以外の異性とまともに関わってこなかったせいか、芹澤さんの端正な外見を前に私は萎縮し、顔もこわばってしまう。

「直接お会いするのは初めてですね。芹澤海音と申します」

 玄関扉を開けて第一声、芹澤さんは恭(うやうや)しく頭を下げ名刺を差し出してくる。

 電話での話し方と同じだ。ホッとし、私もやっと口を開くことができた。

「すみません、私名刺とか作ったことなくてっ」

 つられるように頭を下げ、あたふたと自己紹介をする。

「戸塚ミユです。今回は、私なんかに声をかけてもらって、どうもでした。ここでは何なので、どうぞ、上がって下さい」

 昨日一日かけて掃除したリビングに芹澤さんを案内し、ダイニングで手早く紅茶を淹れた。

「どうか、おかまいなく」

 凛々しい顔に柔らかい笑みを浮かべる芹澤さんは、どこか色っぽく大人の男の人という感じがした。その雰囲気に、不覚にもドキドキしてしまう。

「紅茶なんですが、砂糖とミルクは入れますか?」
「どちらもお願いします」
「分かりました」

 意外。芹澤さん、ミルクティーとか飲むんだ。

 芹澤さんの容姿は非の打ち所がない。完璧過ぎるからか、彼がミルクティーを飲むという絵が想像しにくい。ブラックコーヒーとか無糖紅茶を好みそうなイメージだから。


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