「先輩、私と付き合ってください」

「俺のどこがいいの?」

「その、か、格好良いところが」

「無理だ。君とは付き合えない」

「どうして……」

「君が俺を好きじゃないから」


**********


「あ、紘様よ」

「今日もお美しいわ」

 ああ。女は皆こうだ。俺に媚びてばかり。

 ……なんだこの女。

「おい、邪魔だ。失せろ」

 目の前にやたら挙動不審な女子生徒がいる。

「聞こえないのか」

「す、すみません」

 これだから女は嫌なんだ。


***********


「会長。何イライラしているんです?」

 二階堂がため息を吐く。

「まあ、十中八九‘‘女ってうるせえ’’とか思っているのでしょうが」


「……まあそんなところだ。それより司はまだか」

 生徒会室の扉を開くと、今朝の女子生徒がいた。

「何故ここにいる」

「円ちゃん。どうしたの。早くしないと血が」

「うう……」

「!?」

 何泣いてるんだ!?

「痛い? 痛いの、円ちゃん!?」

 女の手を見ると、ハンカチが血で染まっていた。

「円! どうしたの!?」

 二階堂が出てきた。

 俺と司。泣いてる女。

 絶対誤解される。どうやら知り合いらしいし。

「あ、麻美ぃぃ」

 女は二階堂に抱き着いた。あの二階堂に。

「会長、司先輩。円を泣かせましたね……」

 ほら、やっぱり。一体何者だその女。

「ち、違うの麻美」

 女は一応否定してくれた。

「円、ケガしてるじゃない。早く入って。手当てするから」

 おい二階堂。謝罪はないのか。

「で、どうしたの、このケガは」

 包帯を巻きながら二階堂が問う。

「長くなるから……」

 女は渋っていたが、二階堂に促され、話し出した。

 それはいつものいじめだった。

「つまり、会長のせいで円がイジメられていると」

 二階堂がそう言って怒る。

 今回はその女に失せろと言っただけなのだが。

「会長さんって、迷惑なイケメンだな」

 え?

 今なんて言った、この女。

「あ、すみません! つい心の声がっ」

「円ちゃん、フォローになってないから」

 女は見るからにあたふたしている。

 しかし初めての経験だ。こんな女もいるのか。

「お前は俺を見て何も思はないのか」

「思うって、えと。きれーだなあとか」

 ああ。やっぱりな。こいつも同じか。
 
 何故かがっかりしている自分に驚く。

 すると女はムッとした顔で言った。

「あとアレですね。怖いです。すでにトラウマです。ちなみに人を見下すような眼はどちらかというと嫌いですっ」

 俺は耳を疑った。今、こいつ嫌いと言ったか?

「な、何ですか。会長さんが訊いたんじゃないですか」

 女は急に怖気づく。

 面白い。

 こいつをもっと知りたい。

「名前は。お前の名前」

 さっきから二階堂と司が呼んでいたが、こいつの口から聞きたい、と思った。
 
「川口です」

 川口……そう来るか。まあいい。ゆっくりでいいのだ。

「私教室に戻りますね」

「川口、大丈夫か」

 川口は笑った。

 なぜ笑えるのか。まるで慣れていることのように。

「その、すまなかった。俺のせいで」

 川口は目を丸くしている。

「何を驚いているんだ」

「会長さんって謝るんですね」

「川口は一体俺を何だと思っているんだ」

「意地っ張りな子供、ですかね」

 !!

「あ、年上の方に子供だなんてすみませんっ」

 はは。川口はつくづく面白いな。

「いや、いいんだ。初めて言われた。川口は驚くほど素直だな」

 自然に笑みがこぼれた。

「会長さん、笑うと可愛いですね」

 !?

 どこまで俺を驚かせたら気が済むんだ。

「じゃあ、もう行きますね」

 川口が生徒会室を後にした。

「会長」

「紘」

 二階堂と司が何か言いたげにこちらを見ている。

「恋してますね」

「円ちゃんが好きなんだね」

「ああ。恐らくな」

 川口のことをもっと知りたい。笑った顔が見たい。

「でも会長。円にはうるさい兄たちがついていますから、大変ですよ」

「兄がいるのか」

「いえ。血はつながっていないのですが。私の兄たち三人と、二年の菅原紫苑が円かにべったりなので」

 麻美がため息を吐く。

 血のつながらない兄なんて、ただの男ではないか。

「案外、ゆっくりできないのかもな」

 菅原紫苑、か。