「何、ここ。本当に学校なの?」

 あまりにも大きくて複雑な校舎。中庭はまるで庭園。

 本当に学び舎なのだろうか。

 私は校門で固まってしまった。

「あ、紘様よ」

「今日もお美しいわ」

 女子生徒が校門を見て頬を染める。

 どうして皆こっちを見てるんだろう。

「おい、邪魔だ。失せろ」

 振り向くと、凄く冷たい瞳をした、綺麗な男の人が立っていた。

「聞こえないのか」

「す、すみません」

 頭を下げて道を譲った。

 偉そうな人だ。一体誰なんだろう。

 私の疑問はすぐに解けた。

「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。生徒会長の榎本紘です。我が桜ノ宮学園は……」

 嘘。生徒会長だったのか。

「学園の名に恥じないよう、慎みをもって学園生活を送ってください」

 挨拶が終わると、会場からは拍手と、主に女子生徒のため息が漏れた。

 なんで人気があるんだろう。性格悪そうなのに。顔か。顔がいいからか、やっぱり。

 入学式も終わり教室に行く途中、私を見て眉を顰めたり、小声で囁きあう人たちが目立った。

 私が教室に入ると、会話が止んだ。

 何だろう。

 そのまま席に着くと、後ろからこれ見よがしな会話が始まった。

「入学早々、紘様に近づいた女がいるんですって」

「まあ。なんて無礼なのかしら。紘さまは女性が苦手ですのに」

 私のことか。

 友達、できないだろうな。

「川口さん、いらっしゃる?」

 教室に、上級生がやってきた。ネクタイの色から推測できた。

 にしても、多くないですか?

 五名の、やたら容姿が整った方々に呼ばれる。

「私が川口ですが」

 席を立ち、先輩方のもとへ向かう。

「ちょっとよろしいかしら?」

 お姫様(勝手に命名)が妖しく微笑んだ。

「はい」

 返事はしたものの、内心めちゃくちゃ焦っている私である。

 黙って先輩方についていくと、温室についた。

「川口円さん。貴女はご自分のなさった事の重大さがお分かり?」

 私のしたこと?

「えと。会長さんの歩いてた道を遮った事でしょうか」

「ええ。それに貴女、紘さまとお話をしましたね」

 話って。どけって言われただけですが。

「新入生だからと甘いことは致しません。桜ノ宮学園に入学したからには、破ってはならない規則があります。貴女には全生徒からの罰があるでしょう」

 それでは。と、お姫様は去って行った。

「何、今の。後で紫苑と麻美に訊いてみよ」