「やっと出ていくんだ。居候」
 
 冷めた目で私を見ているのは、従妹の愛海。

「お世話になりました」

「世話になったと思っているのなら、あんたにかけたお金、バイトでもして全額返しなさいよ」

「はい。そのつもりです。叔母さん」

 もう、これくらいの言葉では傷つかない。

「では、お元気で」

 おそらく、ここ五年の中で一番の笑顔で言えたと思う。

 十歳の時に叔父夫婦に引き取られ、五年間。一つ年下の愛海の嫌がらせに耐え、叔母の悪口、厭味にも耐え、叔父に無視され続け、存在を否定されても耐えてきた。
 
 私立高校への入学を機に、一人暮らしを始めることにした。叔父たちに迷惑が掛からないよう、特待生として入学した。一人暮らしに向けての費用は、父の幼馴染で家族ぐるみの付き合いのある、菅原の孝おじさんと、二階堂のおじさん達が

「円ちゃんはうちの娘も同然だから」

と引き受けてくれた。
 
 孝おじさんの息子の紫苑と、二階堂のおじさんの娘の麻美は、私の一つ年上で幼馴染だ。二人とも、私が入学する高校の生徒で、麻美は生徒会役員をしているらしい。

 この私立高校、桜ノ宮学園は、俗にいう金持ちボンボ……大企業の子息令嬢が通うセレブ校である。

 ちなみに、紫苑は両親が有名デザイナーで、紫苑自身も、SUGAWARA の専属モデルとして活躍している。
 麻美の父親は、大企業の社長で、私の父は生前、その企業で働いていた。

 菅原も二階堂も、私にとっては家族も同然なのだ。


 地図を見ながらアパートを探していると、何やら人だかりが見えた。

「あの、人が沢山いるところかな」

 近づくと、見目麗しい人々がアパートの前に立っている。

「円ちゃん、まだなのか」

「落着きなって、父さん」

「私も少し遅いと思うのだが」

「お父さんまでやめてよ」

 嘘。
 何でここにいるの!?