赤、赤、赤。真っ赤な液体がそこかしこを染める。

 声、泣き声、叫び声。何て言っているのか分からない。

「円」

 名前を呼ばれた気がする。そうだ。私は円。今日は誕生日で、みんなで買い物に行く途中で。

「お父さん、お母さん? 和も」

 どうしてみんな血まみれなの?

「ケーキ、ごめんな。潰れたかな」

 お父さん。そんなことはどうでもいい。どうして血が出ているの?

「お父さ、ん」

 私が、やったことなの?

 ああもうダメ。前が、よく見えない。

********

「ねえ、本気なの?あなた」

「仕方がないだろ。親父もお袋も老人ホームだし。他に親戚もいないしな」

 叔父さんと叔母さんの声がする。

「川口さん。ちょっとよろしいでしょうか」

 これは紫苑のお父さんの声だ。どうして孝おじさんがいるのだろう。

「円ちゃんのことですが。私か二階堂さんかが引き取りたいと考えております」

 二階堂って麻美の家? 引き取るってどういうこと?

「いえいえ。ご心配には及びません。川口の家で引き取らせていただきます。一応、血のつな

がりもあることですし」

「一応とはどういう意味で?」

あ。孝おじさんが怒った。おじさん、笑顔のまま怒るから凄く怖いんだよね。

「確かに私どもは円ちゃんと血のつながりはありません。しかし、家族として接してきたつも

りです。慎一とすみれさんの分まで、愛し育てていくことができます。恐れながら、貴方がそ

うできるようには、私には思えないのです」

「失礼な。いくら菅原さんでも言ってはならないことというものが……」

 ちょっと待って。慎一とすみれってお父さんとお母さんのこと? 引き取るってまさか。

「おと、うさん。おか、あさん?」

 喉がカラカラに渇いて上手く声が出ない。

「円ちゃん! 大丈夫かい? そのまま寝てていいから」

 孝おじさんが、起き上がろうとする私を止める。

「おじ、さん。おとう、さん達は?」

 ねえ。なにがあったの。みんなは無事なの?教えてよ。

「円ちゃん、落ち着いて聞くんだよ」

 私を宥めてから、おじさんは息を吸った。

「お父さんとお母さんと和ちゃん、そして君は、交通事故に遭ったんだ。すぐに病院に運ばれ

たんだが……慎一もすみれさんも、和ちゃんも、病院で息を引き取った」